70 領土を守る果て
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アウスト共和国によって攻め込まれたアンゼルバイヤ国は落城寸前であった。
王:ワット・ド・アンゼルバイヤの死を王宮内ではひた隠しにしていたのだが、情報が漏れるのも時間の問題。
何より王がいなくなったことを知られると、兵士の士気が下がってしまうことはわかっていた。
(#3) 2011/11/26(Sat) 00時半頃
しかし、いくら義勇軍を募ろうが治安警察が動こうが、平和な国だったアンゼルバイヤに長期に渡る戦いは不利になる一方。
全てを王の近くで見ていたハワードは口を開いてラルフに告げる。
(#4) 2011/11/26(Sat) 00時半頃
『これ以上の血を流すのは王は望んでおりません。
降参しましょう。』
(#5) 2011/11/26(Sat) 00時半頃
ラルフは眼を見開いて、敗北という二文字が脳裏を過る。
だが彼もわかっていた。これ以上戦っても勝てる見込みはないということを。
(#6) 2011/11/26(Sat) 00時半頃
程なくして兵士達に王:ワット・ド・アンゼルバイヤが亡くなったことが告げられた。
心身共に疲れ切った兵士はその絶望と悲しみに打ち拉がれて、中には泣く者もいるだろう。
それは連日、夜に行われた戦いの少し前の話だった。
(#7) 2011/11/26(Sat) 00時半頃
無血開城。
アンゼルバイヤ国は攻め込む体勢を取っていたアウスト共和国に敗北の意を伝える降伏の旗を掲げた。
多くの命が失われたこの戦いの終止符を、偵察隊であるラルフが敵へと伝えに行くこととなる。
(#8) 2011/11/26(Sat) 00時半頃
ヨアヒムはその報告に喜び単身で敵地に向かわせた三男:ヤニクを褒めた。
そして降伏を行ったアンゼルバイヤ国はアウスト共和国の支配下となるだろう。
(#9) 2011/11/26(Sat) 00時半頃
番外編
Una flor bonita<可憐な一輪の華>
El pensamiento del príncipe<王子の思い>**
(#10) 2011/11/26(Sat) 00時半頃
― 数年後 ―
あの戦いから数年後、アンゼルバイヤ国を支配下に置いていたアウスト共和国の王:ヨアヒム・アウストは病に侵されていた。
それはサイラス・サラスやヴェスパタインと同じ病。
死を目前に迫ったヨアヒムは遺言として三男であるヤニクを後継者として指名した。
それは数年前の戦いでアンゼルバイヤ国を手に入れることの出来た少し遅い褒美でもあった。
(#11) 2011/11/26(Sat) 01時頃
その遺言を聞き入れたヤニクは心の中で喜んだ。
彼はこの機を狙っていたからだ。
(#12) 2011/11/26(Sat) 01時頃
欲しい物はどんな手を使っても手に入れたヨアヒム・アウスト。
アウスト共和国はこの王の様に国全体の雰囲気も染まっていた。
貧困な国でもあった為、その強奪振りは加速を増した。
ローズマリー・ディアスの様に国外へ亡命する者も少なくはないことをヤニクは知っている。
(#13) 2011/11/26(Sat) 01時頃
彼はそんな自分の国を、平和で笑いの絶えないアンゼルバイヤ国の様にしたいと心で願った。
しかし今のままでは父親が亡くなっても兄に後継者として指名されるのわかりきったこと。
だから父親がアンゼルバイヤ国を攻めると言ったその時に、スパイとして自分を送り込むように名乗り出たのだ。
ここで功績を残せば、父親も認めてくれる。そして次の王には自分がなるのだと。
(#14) 2011/11/26(Sat) 01時頃
彼がそれを手に入れる為に有無も言わさず平和なアンゼルバイヤ国を攻め込んだのは、
――――"誰かから何かを奪うことしか知らなかった"から。
(#15) 2011/11/26(Sat) 01時頃
案の定、父親は後継者として兄ではなく自分を告げた。
それから彼の王としての新たな物語は続いた。
(#16) 2011/11/26(Sat) 01時頃
彼は支配下に置いていたアンゼルバイヤ国とアウスト共和国を併合し新たな国を作り上げた。その国名は「ナインチェ」
平和を祈って付けた名前。
そして争いのない、誰でも平和に暮らせる国を目指して彼は新たな一歩を歩み始める。
(#17) 2011/11/26(Sat) 01時頃
国内では新たな国旗と紋章が掲げられると、彼は王族の印である正装をして王宮から外を眺めた。
街中は彼の望んでいたように争いのない平和な国がそこにはあり、子供達が楽しそうに笑う声も耳には届く。
墓には「ストック」と呼ばれた幼い子供を連れた見覚えのある顔もいただろう。
空は青く澄み渡り、平和を象徴する白い鳩が彼の目の前を空に向かって羽ばたいた。
彼はその光景を目の当たりにすると眩しそうに目を細めて、静かに微笑んだ。
(#18) 2011/11/26(Sat) 01時頃
― Cast ―
<暖かく見守った未来人>
ピッパ・クライシス
<王に忠誠を尽くした兵士>
イアン・パーカー
(#19) 2011/11/26(Sat) 01時頃
<王子の気品、一国の王子>
カルヴィン・ド・アンゼルバイヤ
<人を操ち、王子を守った歌姫>
コリーン・アキューリアス
<王子の良き理解者として傍にいた"少年">
ロビン・バークレイ
(#20) 2011/11/26(Sat) 01時頃
<友人に全てを託した薬屋>
サイラス・サラス
<国の為に命を散らせた治安警察>
アーサー・ゴドウィン
(#21) 2011/11/26(Sat) 01時頃
<名物料理を提供した料理人>
ギリアン・ゴダード
<家族、国民を愛した一国の王>
ワット・デ・アンゼルバイヤ
<"彼"の世界を夢みた墓守>
ヨーランダ
<聖なる十字架を背負い愛を貫いた女>
ローズマリー・ディアス(ラヴクラフト)
(#22) 2011/11/26(Sat) 01時頃
<戦いの旋律を奏でた音楽家>
セシル=ローランド
<愛を守る為の博打をかけた賭博師>
プリシラ・ヴァルゴ
<病魔と闘い、戦術の長けたランタン職人>
ヴェスパタイン
(#23) 2011/11/26(Sat) 01時頃
<愛しい女へ最上級の愛を贈った本屋>
ベネット=ラヴクラフト
<皆に笑顔を与えた万屋>
ソフィア (・パーカー)
<偽りの性別で戦場を駆け抜けたジャンヌ・ダルク>
グロリア・グランツーリスモ
<愛に守られた花売りの令嬢>
メアリー・フォスター
(#24) 2011/11/26(Sat) 01時頃
勝者
<家族に愛されたアウスト共和国の王子>
ヤニク・ジョルジュ
(#25) 2011/11/26(Sat) 01時頃
数多の命は天へと昇り、やがて新たな人生を歩み始める。
それがどのような国になるのかは再び命を授かった者次第。
(#26) 2011/11/26(Sat) 01時頃
― とある図書室 ―
"その人"が見つめる歴史書はあと僅かで終わりを見せた。
転生された命を宿し、"その人"は書き続ける。
そしてその物語を書き終わるまでにはあと数日の時間が必要とされるだろう。**
(#27) 2011/11/26(Sat) 01時頃
−ナインチェ・丘の上−
[王族の正装を脱ぎ、フードの着いた普段着を着て、うさぎを連れて散歩に出る。丘の上の木の下へ腰掛け、膝に抱いたうさぎに餌をやる。
かつて、戦場になっていたその場所は、今では以前のように草花が生え、穏やかな風が流れており、小鳥のさえずりが辺りに響く。]
平和だねぇ…。
[あの戦争が始まる前、ここで時々昼寝をしていたことがあった。起きたら日が暮れていて、動物に囲まれており、ランタンを置いていってくれた人やストールをかけてくれていた人もいたんだっけ。
微笑みながら、ふとその時のことを思い出す。]
[産まれた落ちた時から、誰かから何かを奪わなければ生きてはいけない。そんな国に自分は産まれた。
“奪うこと”
それは、生きる為の手段であり、当たり前のこと。そう割り切らなければ、非情にならなければ、生きてなどいけない。
それができない優しい人、他人を思いやる人
力がなく弱く、奪うことができない人
そんな人たちがどうなるか、ずっと目の当たりにして生きてきた。
耐えかねた民衆が革命を起こそうが、父が王になろうが
変わらなかったこの国を
――――ならば、自分が変えてみせよう、と
そう思ったのはいつだっただろう。]
[自分が王になる為に、アンゼルバイヤを利用しよう、と
そうしてやってきたこの国は、笑顔と豊かさに溢れていた
誰からも、何も奪わずに平穏に生きていけるこの国の人々が
妬ましかった、憎らしかった
それと同時に羨ましく思い、憧れていた
この国のように、アウストの民も
誰からも、何も奪わず生きていけるように
その為に、この国を奪うのは滑稽だろうけれど
この国を、そしてアウストの王座を奪うまでは
非情に残忍に、命だろうとなんだろうと躊躇せず奪ってやろうと
――――そう誓ったのは、この場所で、だったような気がする]
[当時、国境付近だったこの丘からは、かつてのアウスト、そしてアンゼルバイヤがよく見渡せる。
その二つの土地を有する
“ナインチェ”
と名付けたこの国は、争いごとなど一切なく、民は平穏に暮らしている。]
[膝に乗せたうさぎをそっとなでると、嬉しそうに眼を細めた。誰に語りかけるでもなく、ぽつりと呟く。]
……俺は、歴史を作れただろうか。
やっとの思いで手に入れたんだ。
アンゼルバイヤを、そしてアウストを。
そこから作ったナインチェを、俺は死ぬまで守ってみせるよ?
[穏やかな日差しの中、木にもたれかかってうさぎを抱き、そっと眼を閉じ眠りについた―――]**
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