149 【凍った】カオスバトル決戦【リス】
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たとえ、彼女を──ユリちゃんを僕がこの手で殺すことになってもね?
[僕が勇者になるためには生き残る事が絶対の条件だから。
尊い犠牲は付き物なのだ]
[究極の家政婦は、主人の身を守る盾であり―――
また、主の命とあらば、確実に障害となる相手を仕留める矛でもある。]
[だから、芙蓉にとっての家政婦道の中に殺人・護身技能が存在したとしても不思議ではなかった。
昨今の家政婦は三歩主の後ろを歩くだけでは務まらない。
主には三歩後ろを歩いていると思わせておいて、痕跡すら残さず主にとって邪魔なものを排除する露払いもできなくてはならない。]
[たとえ、武器がチュッパチャップスであってもだ。]
[素早く僕は地面を蹴って、兵士との距離を一気につめる。
瞬歩を見抜けずに突然前に躍り出た僕に驚いた兵士は、目を見開いていた。
そして彼は銃を手にかけようとしていたけど遅い。]
動かない方が身の為だよ?
[僕はゆりちゃんから貰ったチュプスの柄を顎の下に押し付けている。
その柔らかく骨のない部分なら、チュプスの持ち手でも十分に皮膚を破って貫通させることができるだろう。
きっと、痛いだけじゃすまないね。]
ヘヘッ……!
アタシが死線を潜らされるとはねぇ…!
[その目に爛々と戦意を宿し、男の置き土産であるチュッパチャップスを拾う。
包み紙を乱暴に破き、興奮を抑えきれず飴玉を噛み砕く。]
[ガリ、ガリガリ]
イイねぇ…!
アタシもまだまだだねェ…!
[ガリガリ、ガリガリ。
ガリガリ。ガリ、ガリリ。]
羊の皮を被った、とんだ狼じゃねーのさ、あの男…!
[ククク、と鋭い犬歯を剥き出しにしながら、家政婦は笑う。
破り捨てた包み紙を回収して、(家政婦はポイ捨てしない。)
ペロリと口の周りを長い舌で舐めまわした。]
[僕に駆逐される、記念すべき最初の敵は誰にしようか?
ゆりちゃんは論外。仲間を手にかけるなんてとんでもない。
ジョーさんは、なんか虫の息だったから放っておいてもいいかな。
千秋君と魔王幹部鳥居はあそこで潰しあうだろうし、無粋なことは出来ないね。
伊藤魔王との決戦は急がなくても時がくればその舞台が用意されるはずだからまあいいさ。
そうだ、律木ちゃんと芙蓉さんが伊藤魔王の召喚獣だったっけ、なら彼女たちだけど……]
加々見さん…ヒロインだと思ったけど、出て行くときの様子が少し妙だったなぁ。
あと、よくわからないのが鯖田さんか。
あの年齢で成人した子供がいるなんて、どこか悪魔的じゃないかい?
この二人は良くわからない…真の姿を見る前に屠るべきか…?
[民家へ向かう道中、僕は勇者として最も正しい道を模索していた。]
[手に持った缶詰は、サスペンス劇場の灰皿よろしく鈍器になってくれないだろうか。
こつこつと、人差し指でリズミカルに叩く。
民家の割れた窓に近づくとパキリとガラスを踏みつけたのか、割れる音がした。
そこそこ響いたけど、やはり何かがいる気配がない。]
もうここには誰もいなさそうだなー。
[部屋内を覗くと物色した痕跡があるが、血痕などは見えなかった。
立ち寄っただけ、ってところかな?]
[何かいいものがあるかもしれないし、僕も探してみようかな。
勇者が民家を物色するなんて当たり前の事だから、咎められるいわれはない。]
伝説の剣がなくても包丁や、モンキーレンチ、拳銃それにバールのようなものがあれば嬉しいな。
[宝探しみたいでわくわくしてきた。]
[廃屋を探って見つけることが出来たのは──1
1.缶詰(賞味期限切れ) 2.お鍋 3.マッチ
4.調味料 5.お皿数枚 6.何も見つけられなかった]
[前に廃屋を探った人物が漁ったと思われるところには、缶詰がまだまだあった。
しかしどれもこれも賞味期限が切れているから非常食には向いていないなぁ。
残念。]
もう少し何かないかな?
[他にも何か、と探索すると──4
1.小麦粉 2.ナイフとフォーク 3.ごつい灰皿 4.使えそうなものは何もない]
[勇者たる僕の、決め台詞。
ふっふっふ…彼にこの声が届くことがあるのだろうか──?]
[地面を踏みしめると、ジャリ、と砂を削る音。
ああ、いけない。
久しぶりに楽しくて、少し体に変な力が入ってるようだ。]
……──愉しいよ、鳥居君。
[くく、と思わず喉が鳴る。
僕の口は弧を描いて、笑んでいるのが自覚できた。]
[鳥居君の言葉を待つ間にも、僕は缶詰の蓋と、チュプスを離す事はない。
いつでも攻撃できるように、ベストな持ち方を試していた。
彼が不審な動きをするなら、右手のチュプスの柄で鳥居君の目を狙ってみようかな。
避けられてもきっと隙が出来るはず。
僕は、その時があれば全力で海に行こう。
もしも手負いの誰かがいるなら、始末するチャンスだからね!]
殺させない…僕の、大事な仲間を……。
[そう、ユリちゃんは僕の大事な仲間。初めての仲間。
世間は僕が勇者である事を認めてくれない。
だけど…ユリちゃんだけは、僕を認めてくれる。
大事な無二の仲間を、こんなとこで殺させるもんか!]
ユリちゃんは僕が守る!!!!
[僕は、もうユリちゃんをこの手で殺すなんて事を考えていなかった。
──否。
彼女が誰かに殺されるくらいなら、僕が殺す。]
[ままごとに付き合うのも家政婦の仕事だ。
確か二人は勇者と従者(という設定)だったか。]
(ふむ、ならアタシは―――)
[さしずめ、1ってところか。
1. 勇者に試練を与える神様
2. 勇者を導く魔法使い
3. 勇者に加護を与える泉の精]
[僕の視線は、芙蓉さんの胸元に注がれる。
ふくよかな胸元に僕は興味がない。
狙うはただ、心臓。]
[懐に飛び込んできたノックスの狙いは心臓。
しかし、家政婦がそんな簡単に殺されていては雇い主の身など守れたものではない。]
[鍔競り合うためのチュッパチャプス一本とは別に、脇からもう一本のチュッパチャプスを取り出す。
カウンターを狙って、飛び込んでくるノックス勇者の心臓に返しの刃(芯棒)を刺しに行く。]
[はたしてノックスは風車に挑む愚かな勇者なるや?
その真価は、この攻防が見定める―――!]
[僕の太刀筋は見破られていたのか、彼女はカウンター攻撃に出るような動きを見せた。]
甘い──!
[先手必勝、先に動いた僕の方に分、そしてリーチの差が僕らの命運を分けたようだ。
しかし、神に上り詰めた芙蓉さんのこと、チュプスを手放し、カウンターの手を緩めるとは、思えなかった]
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