255 【RP村】―汝、贖物を差し出し給え―
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……終わり、ってことかな。
なら、もう、あれはいいや。
[さあ、帰ろう。
僕たちのうちに。]
――この手紙を読む、誰かさんへ。
どうしてここを訪れたんだい?暇つぶし?たまたま?
どちらにせよ、そこに小猿がいたなら、彼の引取主になってくれないか?
彼の呼び名はあるけれど、君が新しくつけるといい。
二枚目に、普段僕が彼と接する時に気をつけていたことをまとめておいたよ。
見つけたからには、彼を見捨てないであげてほしいな。
二度捨てられるなんて可哀想だろ?
連れていきたかった。本当はね。
この先、彼を連れて行くことは出来ない。
僕は総てをゼロにしなくてはならない。
記憶を消すことが出来ないなら、思い出は置いていかなくては。
そうだね、たとえそれで、誰かのこころを苛むとしても。
君がもし、ここに僕を探しにきた誰かさんなら。
忘れてほしい。
君はどこへだってゆける。
だからこそ、忘れるべきだ。
何をかって? そんなの、君が一番わかってるんじゃないかい?
どうせ、僕の要求なんて聞きやしないことも、知ってるよ。
願うだけはタダだろ? 神様だって祈りゃ天啓をくれるんだ。
君に全く心当たりがないなら――……
そうだね、そのままでいるべきだ。
僕が何者かなんて、君は知るべきでないし、探すべきでもない。
そろそろ筆を置こう。
大好きな友人だった君に愛をこめて。
――御休み、良い夢を。
……っ、
ブローリン!ニコラス!聞こえる!?
……ねえ、二人は、大丈夫なの!?
[暗くて息の詰まる場所に移動させられてから、パンがつっかえたみたいに響かなかった僕の赤い声が、また通るようになっていた。
空気の流れに乗せて呼びかけるけど、半端者の僕の声は元々遠くまで届きにくいし、"仲間"の気配なんて探れやしないから。
呼びかけて反応がなければ、もう、そこまででしかないんだ。]
僕は外に出られるようになったよ!
だから二人も、早く逃げようよ、ねえ!
………………、ばか、だなぁ。
[宛名も差出人も何もない手紙。
だけど、僕にはわかる。
いつだったか、この子が床を足跡だらけにしたものだから、
これからは開けっ放しに気をつけようと笑った墨も。
僕がいつ来てもいいように用意してくれた、
彼にとっては余分なはずの皿や小柄な服も。
雨の避難時に慌てて持ち出したはいいけど、
意味を成さずにびしょ濡れにされたおんぼろ傘も。
街で見かけるたびに嬉しかった、僕が選んだキャスケットでさえ。
何もかも"残した"ままの、思い出が沢山詰まった部屋。
僕がここに来ることを確信した上で、
僕の目の前にこうして、全部全部用意したままで、
忘れてほしい――だなんて、ふざけた望みを書き残すんだから。]
― 邂逅 ―
[その屋敷へ訪れたのは、とても幼かった頃。
楓の葉程の小さな掌を伸ばして、優しげな面立ちの皺皺の手を取った。
幼子の"ショク"は、かくして初老の夫婦により館に出迎えられた。
その屋敷の"孫"として。
"ショク"は個体差が大きい。
食事の頻度も、体格も、寿命も。
まるで人間と同じように、バラつきがある。
幼子の"ショク"は少食であった。
食べる頻度も、量も。
ゆえに、体格も周りの人間より劣っていた。]
[幼子の"ショク"は食事に困ることなく、育てられた。
"餌"は、自らの引き取り手である老夫婦の"記憶"。
幼子が食事をする度に、彼らはひとつ、何かを忘れていく。
幼子とできた記憶を、ひとつ。ひとつ。
その度に、幼子は記憶していく。
忘れてしまった老夫婦との過去を。
そして――、
最後には、青年に育った幼子のことも忘れてしまった。]
[その夫婦は"ショク"に食事を与える前に、必ず記録した。
しかし、記録したことを忘れてしまっているために、彼らがその記録を読み返すことは無かった。
青年のショクの手元に残ったものは。
彼らから与えられた莫大な資産と、"青年"のみが知る思い出。
何冊にも認められた、彼らの記憶。僕の思い出。
何故、彼らがそこまでしてショクを引き取ったのかという理由だけは、書かれていることはなかった。]
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