255 【RP村】―汝、贖物を差し出し給え―
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状況を見れば、"罠"な気もするけどね。
[低く呟いて、続く仲間の声に暫し思案を巡らせ。]
そう……それなら、さっき出ていったあの――"彼"。
貰っても?
[喉を掻き毟るほど飢えているわけではない。
それは同胞も同じであるなら、少し、懸念がある故に。]
"敵"に存在を知らせてしまうのは癪だけど、
なりふり構わない恐慌状態の人間を放置できるほど、
――状況は甘くはないよね。
[パニックが広がり、無意味に"告発"されても困る。
それならせめて、静かに眠っておいてもらおうかとの、提案だった]
――次の獲物は君に譲るよ。
[だなんて、僅か笑み混じりの言葉が一つ。]
["罠"だと――。
そう判するようなブローリンの言葉に苦い顔をする。]
それじゃあ僕が、馬鹿みたいじゃないか。
[胸中を突かれた思いで、声に拗ねが混じってしまったのは否めない。
だがそれも、次に続いた言葉を聞けば。]
――……。
[ゾクリと、背筋を走る何かを感じる。
どこか有無を言わせない音に、微かに息を呑む。
見えない目許は、きっと。"ショク"を露わにしたものだろう。]
――不覚を取らないように。
捕まっては元も子もないよ。
[目を閉じ、少し冷ややかな声を乗せるのは、未だ。
図星を突かれてしまった感情が残っていたせいだろう。
『それに、邂逅したばかりの同胞が、
すぐ捕まってしまうのは、名残惜しいからね。』
その細やかな心配も、不敵にも思えるような声を聞けば、
代わりに呆れた声が出そうになるものだった。]
……君のお友達は、なかなかの食わせ物のようだ。
[同胞と顔見知りらしい、年若い声にそう話題を振る。
ブローリンの言葉通りに、翌朝、"彼"が居なくなったことを知ることになるのは、もう少しばかりあとになる。*]
[ そう、摂った"食事"の顔は、忘れずに居る。 ]
( まあ、 嘘は、言ってないし、ね )
[それは、二度目の接触をしないための自衛策だ。
ヒトが神に祈りを捧げて食材に手を合わせる。
それと、何ら変わりない、ただの習慣である。 ]
ふふ。
――ごめんごめん。
[どこか、最初の頃と違って聞こえる聲に、僅かに笑みを湛える。
人間の命を奪わない、というだけだ。
細められた双眸に宿るのは獰猛な――宛ら、肉食獣めいた、捕食者の色である。]
大丈夫だよ。
――大丈夫。
[笑って、それきり。
響いたのは、狩人の笑声だけだった*]
― 深夜 ―
[滑り出た廊下を行って暫く、空いている部屋の戸を開く前に、そこに人影を見る。
――ああ、いたいた。
前髪の奥の双眸が僅かに昏い色を帯びる。]
えーっと、 大丈夫? 具合が悪いの?
[かかった声に、大仰に驚いた彼は、蒼白な顔をさらに青ざめさせて何事かを喚き散らす。
唇に人差し指を押し当てて、その見開かれた目を見つめてしー、と一つ呼気を吐いた。]
―― うん、怖いよね。
<"忘れさせてあげるよ">
けど、睡眠は大事だよ。
もう、眠ろう?
< さあ "俺"の 目を見て >
ね。
[やさしく、甘く、吐き出された言葉に――"彼"は、ぼんやりと頷く。
集音器にはショクの"聲"は捉えられない。人の声で宥める言葉を口にしながら、聲がいざなうのは忘却の淵だ]
大丈夫? 一人で戻れる?
[またぼんやりと頷いた顔を認めれば、ひらりと手を振った。
その背が、ふらふらと遠ざかっていくのを見送って――笑みを深める。
ショクには個体差がある。容姿に始まり、食事の方法も、かかる時間も。
じわりと深奥を満たす恍惚感を噛み締めながら、空き部屋の戸を開いた。
ヒトの食事も嫌いではないが、やはり此れでなくては。
小猿と共に寝台に身を横たえて、暫しの休息へと堕ちていった**]
『喰われた記憶は、僕の胃の中に収まるのだけれどね。
もし、本当に食べられているのなら、それは僕じゃなく――』
.
[届けられた手紙から思い当たるのは、昨日の言葉。
もし、事実であれば、きっと彼は飢えを満たしたのだろう。
腹部を片手で抑え、ジャケットを弱く握る。
コーヒーを飲み下しながら、飢餓感を無理矢理に流し込む。
彼に怒りを向ける謂われはない。
だが、食事をしてしまったことで尚更疑いが向けられるではないか。
僅かな焦りと羨みを覚え、薄く唇を噛む。
――目の前に居る人間が、獲物に見えてしまうように。
飢えに対する誘惑と、誰とも知らぬ団体に対する自尊心がせめぎ合う。]
[過去に食事をした記憶が喉奥を震わせる。
――口にした瞬間の、甘美な味。]
美味しかったのかな。
[等でもないその言葉は、ぽとりと声となって。**]
[いつごろだったかな。
馴染みある声の馴染みない音に黙って耳を傾けた。
長い髪を振り乱しながら逃げ出したあの人。
確かに、あれだけ錯乱してる人を放っといたら何するかわかんないしね。
……だから一人は危ないよって止めようとしたのになあ。
まあいいか。こうして僕の友達の喉を潤してくれるわけだし。
……僕は二人の同胞とは言い切れない。はず、なんだけど。
そんな風に考えてほっとしちゃうのも、仕方ないんだろう。]
うん。
安心してよ。ブローリンはね、ああ見えてかなり頭が回るから。
[ 本人に聞こえるか聞こえないか知らないけどね。
普段はへの字口して素直にいじられてる優しいやつだけど、僕は知ってる。本当はいつも沢山考えてて、頼りになるやつなんだって。
だから、そこは純粋に褒めておく]
君とは初対面でも、足を引っ張るような真似するはずないよ。
[多分、ショクとしての彼はもっと凄いんだから。
……でも、ショクの"衝動"で、何か変わっちゃうだろうか。
やっと見つけた、半分だけの仲間たち。
一番神経を使う時期に、むごいやり方で囚われたふたり。
僕には、何ができる。どうすればいいんだろう。
とりとめのない思考に沈みながら、僕はその日、眠りについた*]
― **** ―
[その声を、投げた時刻はいつだったか。
館のどこかで、同胞を。同胞を憂う瞳を。
見かけた時だったように思う。]
――告発は、あると思うかい?
[ただ、一言。そう問いかける。
たった数日前に顔を合わせたばかりの同胞(はらから)。
捨て置くことは容易いが、顔を合わせれば心積もる何かはある。
それはまた、人間への思いとも同じ。*]
―― どうかな。
でも、向こうは一致団結して脱出、なんてされたら困るだろうから。
あったように見せる、のなんて、容易く無いかい?
[なにせ、仕掛け人だ。
意識に染み込む聲に答えながら、取り留めのない思考をまとめていく。]
そもそも。
疑うように仕向けてくるこの仕組自体が、どうなの、ってところでさ。
ただ"サンプル"がほしいなら、それこそ、ここにいる人間をさ。
全員確保してしまったって、いいでしょう。
違ったら逃がせばいいのだもの。犠牲者も出ない。
それをしないで、わざわざ探せと云う。
――逆転を恐れてるようにも見える。
或いは。
何か、"対抗手段"を、持ってるのかもしれないね。
僕らに対する、さ。
そっちのデータをとってるなら、疑心暗鬼に追い込んでボロをまつ、っていう受け身の手段も理解できる。
―― 濡れ衣を着せて、逃げおおせるしかないんじゃない?
[喋りながらまとめた思考の最後に、笑声混じりに告げた*]
――……。
[冷静な碧の声に、口を噤む。
確かにこの方法は明らかに、疑い合うことを目的としているようにも思えて。
それがまた、腸を重くさせる一因でもあった。
"全員確保してしまったっていい。"
確かに、今日一日考えて思い至ったのは僕も其処だった。]
……対抗手段は、考えていなかった。
そうか。
もし、そう、そうならば。
大人しくしている必要は、ないのかな――。
[背中を押すような声と、未だ残る躊躇いに瞳が惑う。*]
……すまない。
碧の君。
今日は……、食事が喉を通らなそうだ。
必要ならば、君が僕の代わりに食事を――。*
――そうか、皆既月食、かぁ。
[迷い子のような、曖昧な聲に、ぼんやりと空を見上げた。
昨日"食事"を取れたからか、幸いにして、強い飢えが衝動となるほど、身を焦がしているわけではない。]
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