158 雪の夜に
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お使い ハナは、メモを貼った。
2013/12/27(Fri) 22時頃
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[セレストがあらん限りの声を上げました。 広場から、診療所の中から。なんだなんだと人が徐々に集まってきます。 その中にはよく見知った顔もいくつも、いくつも。]
あ、あ、あ!
[ふたたび、少女は歯の根を鳴らしました。
人狼だ 人狼だ。 人狼だ!
ひとびとの声が、視線が、戸惑いが、恐怖が、悪意が突き刺さります。 ハナの中でいくつもの景色が弾けて消えました。
やがて母親の呪いと朽ちた首つり台がからだにとけて。
『ころされる!』]
あ、あ、ああああアアア!!
(97) 2013/12/27(Fri) 22時頃
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るうううぅううう ァァアアアア!
(98) 2013/12/27(Fri) 22時頃
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[ついには、牙をむき出しにして、暴れだしたのです。]
(99) 2013/12/27(Fri) 22時頃
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おい! 大丈夫か……っ、
[最初に視界に飛び込んだのは目立つ色――赤だ。 そして大人が二人がかりで子供を押さえ付けているようにも。
だが良く見れば、ヒューは力なく項垂れており、 獣のように唸るセレストが捕えている子供の姿は。]
――危ないぞ、離れろ!!
(100) 2013/12/27(Fri) 22時頃
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[銀色の幼い獣。 恐怖のなかにあっても、綺麗だと感じた。
大気は凍てつき、夜空には冴え冴えと月が浮かんでいた。 雪原に溶け込むような色の、狼。
夢か現実か、そこで、わからなくなった。 美しいと、圧倒されていた。
朝凪亭で、ハナを見つけた時は驚いた。 子供の一年での変化は大きい。 ハナは今よりも小さかった。]
(101) 2013/12/27(Fri) 22時半頃
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[あの狼を、悪者だと考えようとしていた。 ……最初のうちは。 ヒューにはそれができなかった。 考えるうちに、虚しくなってしまった。
ただの子供を相手に、そいつが悪者だと考えていくほど、 まるで「その子供は生きていてはいけない」というような結論になっていった。 それに、納得ができなかった。]
(102) 2013/12/27(Fri) 22時半頃
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[人々が、集まってくる。 人狼、人狼、人狼。 悪意の視線が、声が、向けられる。 向けられるのは女にではなくハナにだ。 ハナが叫んだ、牙が見える。人間にはない牙が。]
―――…嫌だ。
[首を振って呟いたのは牙に対してではなく、>>100聞こえてきた声に対してだった。 だって、ここで手を離してしまったら、 子供を逃がしてしまったら、]
だって今離したら… また誰か、襲うんだろ…?
[次にその牙に、爪に、襲われるのは誰だ。 目の前のヒューかもしれない。港にいる仲間かも。 かちかちと、歯の根が噛み合わないのは女もだった。 子供が1人で逃げていってしまわないように、ハナの腕にしがみつく。]
(103) 2013/12/27(Fri) 22時半頃
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[既に人が集まっている、この状況を覆すのは難しい。]
[昨晩の船乗りなら時間も場所も選ぶ事が出来ていた。
小さな子供の行きそうな場所を、例えば、
隠れ鬼などに使いそうな物陰なんかも含めて見回って、
風除けのある暗がりでその背に狙いを定めた]
[ぴしゃりと霙まじりの雪を踏む足音に振り返っても、
既に逃げおおせることは許さない間合いに入っている。
血の色が弾ける中にあって、それとは似て非なるもの、
夜闇でも光る鮮紅の瞳を男は見ただろうか。
倒れ伏す船乗りから点々と、血の色が通りへ続いていた――]
[一般論は他人事だ。
女の語る言葉は、常に自分自身を除外する。
自らがどこにも属さない者であると知っていた]
ありがとう。
[それは在ることを肯定してくれる言葉だ]
……優しいのね。
[かつて許される場所のあったことを、思い出す]
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[その時、女が向かっていたのは自警団だ。
自分の自己満足な願いごとに、 彼の穏やかな時を奪う権利などない
終わりにしてしまえばいい、 人狼が捕まって処刑されれば全ては収束する。
狩りをしばらくは止めて貰う様に伝え、 それから自分が人狼だと名乗り出てしまえばいい。 教会の司祭はもういないのだから、 人と狼の見分けがつくものなどいないだろう]
(104) 2013/12/27(Fri) 23時頃
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[セレストが、聞いた事もないような唸り声をあげ、ハナの腕を押さえつけている。 セレストやハナの大声を聞きつけて、人が集まってきていた。 ――人狼だ。人狼だ。 人狼だ!]
やめろよ
[手が痛む。 外れそうな指や、貫かれた手のひらが、悲鳴をあげている。 唇が戦慄く。]
こいつ、悪くねえんだよ、 やめてやれ……
[それは、いろんな者の怒声にかき消された。 獣の叫び声が聞こえた。 ハナは、牙を剥き出しにしていた。]
(105) 2013/12/27(Fri) 23時頃
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[けれど、事態は単純ではなかった。 声の無い襲撃者の正体を女はたった今知った。
遠巻きの人々、 暴れる少女のうなり声と、 それを押さえ付ける人影と]
……、
[ゆっくりと近づきながら、 女の紅い口唇は音もなく何かを囁いて]
(106) 2013/12/27(Fri) 23時頃
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俺が優しかったら世の中の奴らは8割がた優しいけどな。
[根拠は割愛した。さして愉快な話でもない。]
考えちゃいるがこの状況大分ムリあるぜ……!
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[少女が身を捩るたびに、足元の雪は汚れていきました。 大人二人の力には敵わないのか、体勢が悪いのか、組付かれた男の姿を、荒れ狂うかいなを止める腕を引き離すことが出来ません。 狂乱の中少女の瞳に宿っているのはどこまでも――怯えでした。
やがて武器を持った男たちが示し合わせ、ゆっくりと場を包囲していきます。 少女に逃げ場はどこにも、ありませんでした。]
(107) 2013/12/27(Fri) 23時頃
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私に、優しくしてくれたと思ったのだけど。
……違ったかしら?
[と、戯れのような言葉を交わす時ではなかったが]
そうね……、
人目を集めすぎている。
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それに、 あの子には、聞こえない、のでしょうね……。
[声音は酷く悲しげで、ただゆるく頭を振る]
(108) 2013/12/27(Fri) 23時頃
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って、ここでジリ貧してりゃ二進も三進も……っ
[流石に手は離さない女の反応に、顔を顰めた。
自警団の人間も聞きつけて来たようだ。 男達が武器を手に輪を作っている。]
くそ! ――貸せッ!!
[舌打ちをひとつ。 野次馬だか自警団だか、邪魔者を押しのけて、 悲鳴と共に暴れる子供に腕を広げた。]
(109) 2013/12/27(Fri) 23時頃
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[ヤニクの叫んだ内容は、尤もだった。 セレストは、唸り声をあげながら、子供の手を離さない。 このままでは、セレストが危ないと分かって、怯えたようにかぶりを振った。 雪に接して冷え切った足で立ち上がろうとして、よろける。 どろどろと血は手から流れ出ていて、雪を汚していく。]
セレスト
[縋るように、血に染まっている手を、セレストの服に伸ばした。 首を横にふる。もうやめてくれと、言いたげに。]
(110) 2013/12/27(Fri) 23時半頃
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[やがて周囲の人間が、ハナに組み付き、押さえ込もうとし、 武器を持った男達まで現れた。
ハナの逃げ場は、どんどん奪われていく。 怯えた目のちいさな人狼は、ゆっくりと包囲されていく。]
(111) 2013/12/27(Fri) 23時半頃
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[あの青年はこのことを知っていて、 そして必死に留めようとしたのだろう、 雪はまた紅く染まっていた。
自分は確かに、無力な何も出来ない存在だった。
人間にも人狼にも、 心を寄せて寄せて切れずに。 そして、どちらにもなれなかった。
どうすればよかったのか。 ――あの時、どうすればよかったのか]
(112) 2013/12/27(Fri) 23時半頃
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うぅ……、
[ハナの腕にしがみついたまま、 女は近付いてくる群衆をも威嚇するように唸った。 敵と味方の区別がついていないのは女もかもしれなかった。 女の離さない腕が、子供の逃げ場をなくしていく。 小さな人狼を、追い詰めていく。]
――…うぅぅ……
[>>110縋るように服を引くヒューの手に呻きが零れる。 唸りは、涙交じりの声に変っていた。 男は、少女は悪くないという。 じゃあ、誰が本当は悪いのだろう。]
うぅ…、
[力なく頭垂れて、少女にしがみついていた力が抜ける。]
(113) 2013/12/27(Fri) 23時半頃
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[友達、と呼んだ男が両腕を拡げます。 しがみついていた女の力が抜けたころ。 進路を奪われた自警団の面々も怯え怯え、武器を振りかざしていました。 大きく、怯えに濡れた眼が開かれました。
打突音。
悲鳴が高く、辺りに響き渡りました。]
(114) 2013/12/28(Sat) 00時頃
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――……っ、
[目の前の光景を瞳に写すだけの女が、 びくりと弾かれた様に顔をあげたのは、 >>109 青年の声と少女へと伸ばされた腕を見て]
(115) 2013/12/28(Sat) 00時頃
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[セレストの威嚇するかのような唸り声が、涙混じりの呻へ変わった。セレストの手から、力が抜けて、少女の腕が自由になった。 安堵にか、一度だけ、ゆっくりと意識して震える息を吐き出した。 その後の呼吸は、短く、不揃い。 それは多分痛みから。 または、両手が使えなくなる事への怯えから。]
ごめんな。
[ホレーショーの病室の前でしたように、再度セレストに謝った。]
(116) 2013/12/28(Sat) 00時頃
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[視界の端に、黒い服が見えた。
――また、この町で人狼が捕まるのを、見たくないの。
そう紅い唇は言っていた。
それが、どうだ。 目の前では、武器を持った男達に、怯えた目の人狼が包囲されようとしている。 呆然と光景を見守るしかなかった。 振りかざされた武器。 はっとして、息を吸い込む。 奥歯が震えるのは、寒さからだろうか。]
や、
[打突音。高く、悲鳴が響いた。]
やめろ!!
[喉をいためそうな程、声を振り絞った。]
(117) 2013/12/28(Sat) 00時頃
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てめぇらも自警団っつーなら、先に怪我人何とかしやがれ!
[吼えて、力の抜ける女から、小さな人狼の体を引き剥がす。 内に囲うようにして、背中に腕を回した。 近付く誰かの手を肩で押し返す。 爪が身を裂いたかも知れない。牙が穿ったかも。]
大丈夫だ、っ
[周囲の声に反応する余裕などまるでなかったが、 ハナの頭に頬を押し付けた。]
友達だろ。 ……――――――
[微かに囁く言葉に、どれ程の意味がなせたかは知れぬ事で]
(118) 2013/12/28(Sat) 00時頃
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[ただ、
無情に、子供の腕に見知らぬ誰かの手が届いた。 大勢の手が、それを思うままにしようとして、 ハナの怯えを知る者から引き離そうとしている。
目を見開く。 誰かが棒のようなものを振りかざすのが見えて、 喉を潰すような制止の声があって、
甲高い悲鳴が空に刺さった。]
(119) 2013/12/28(Sat) 00時頃
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[少女が最後に見た景色はなんだったのでしょう。
力なく落ちていく眼の光は、ヒューを、セレストを、ヤニクを捉えていました。 離された腕は空を泳ぎ、やがて力を失っていきました。
仕留められた人狼に、野次馬は大いに沸き、どよめきが辺りを支配しました。
自警団の面々は場の状況にかかわらず、少女の身柄を要求したことでしょう。]
(120) 2013/12/28(Sat) 00時半頃
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