64 色取月の神隠し
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ああ、そうだね。楽しみにしてる。
皆で、踊れるといい。
――楽しみにしてるよ。
[静かに言って、思い浮かべるように目を*閉じた*]
お志乃みたいな別嬪にそこまで言ってもらえるなんざ
己も果報者だよ。
……向うに帰すのが、つくづく惜しくなるな。
[あけっぴろげな好意を寄せる志乃に、韜晦するように笑う]
沙耶みたいに淑やかな花を手折れるのなら、愛でるのもいいが、
だが己と人の子の間に何が有ったか、お志乃は知ってるだろう。
結局、あいつらとは獲るか獲られるかの関わりでしかないのさ。
[秋月は例外的に気に入ってはいたが
結局彼はあやかし混じりで、純然たる人の子ではない]
うん、向こうでなら沢山奏でられるだろ。
太鼓や笙もあるだろうし、聞かせてやりたいな。
なるべく早く行………
…………。
[志乃の前半の言葉にはにこやかだったが。
後半の言葉を聴いているうちに、また言葉が消えていく。
表情が見えたなら、口をへの字に結んでいる龍笛が見えたに違いない。]
……わかった。
己が面食いかって……?
[芙蓉の意識がじいっと集中されるのを感じる]
そらぁ、そうさ。
己だけじゃなくて、男は皆そうだろう?
なぁ、辰サンだって、別嬪好みだろ?
明の兄さんも――あぁ、きっと、綺麗な娘が良いに決まってるさ。
[悪気なく辰次に追撃の言の葉を向け、明之進にも火種を飛ばす]
古来より、生贄にされるのは綺麗で若い娘と決まっているよな。
昔から変わってないってこった。
[さりげない同意。
だから俺らは悪くないのだ。]
ほんまにお上手ですねぇ。
そうやっていつとなく心そらなる恋を育てて
富士の高嶺にかかる白雲のような気にさせるやろね?
豊穣を運ぶ秋の風のように花を撫で
微睡みの夢を残しますんやろ?
奴延鳥さんに魅入られた子は切なぁに思いますよぅ?
せやろうね。奴延鳥さんが負うたんはただの痕やないんはわかります
永劫の輪廻を抜けて尚、癒えぬこともないんやろうね
[同じ千の刻を数えども、運命の歯車はヒトへの思いをこうまで隔てて至る。
妖しとしてと言わずとも、彼が負ったことを思えば、それ以上紡げる言葉も持てず。女は悲しくもあり……だからこそ手負いの羅刹を美しくも思えた]
龍っつぁんは大胆やねぇ
[くすくすと鈴が揺れるような箏の音色がしばらく響く]
……本当になぁ。
辰サンのお気に入りを見るのが愉しみになってきたよ。
[くすくうと笑う箏の音色を受けて、男もくつくつと笑う。
こんな同胞との交わりも悪くはないと思えるのは、
砕けて欠片となった男が、永き歳月に磨かれて丸く軟くなったからか――或いは志乃や芙蓉に絆されてのことか**]
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