164 天つ星舞え緋を纏い
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[焔に触れた蝶はちりと燃え、舞い上がりながら燃え尽き行く。
その最中に放たれた拳は、焔の奥に居る法泉へと届いた]
──っ、 つぁ…!
[焼けた肌に負荷がかかり、爛れた箇所に亀裂が入る。
そうでなくとも殴るという行為は自身への反動があるもの。
吹き飛び倒れた法泉への追撃もままならず、痛みに耐えるために再び脇を締めて左腕を引いた]
───くっ、はははは。
化かし合いや言うたやろ。
なんでもかんでも出してくる思ぅなや。
[睨む法泉へ向けるのは出し抜いたことに対する優越の笑み。
尤も、自身を巡る痛みに歪められた笑みではあったが。
法泉のあのような表情を見るのは初めてではないだろうか。
幼い頃は大喧嘩するような切欠は無かったし、彼が里に戻って来てからは言わずもがなだ]
なんや、目ぇ開くんやんか。
[その容姿さえも揶揄ったが、正直優位に立ったとは言い難い。
左手はしばらく動かせはしないだろう。
握られたままの拳が小刻みに震えていた]
(そろそろ、あっちもええやろか)
[法泉が言葉を発せずに居る間、意識を一瞬だけ背後へと向ける。
川へと放った狐狸と人型人形は華月斎の指示通りに半紙を濡らし、狐狸自身も身体に水を含ませていた。
人型人形はその作業の間、狐狸が流れぬように支える役目。
そしてもう一つ、人型人形についた絹糸がある役目を果たす]
わいがなんやって───── げっ。
[ようやく絞り出された法泉の声に意識を戻すと、視界には幼き記憶に残る鬼火が彼の周囲に数多現れていた。
思わず嫌そうな声が漏れ、一歩後退る]
いやーやなぁ、怒ってもぅた?
[軽い声で余裕ぶるも、その額には冷や汗一つ*]
殺しちまったんだから。
[少し離れてそう呟いたのは、笛が薙ぎ払われるより少し前か。
人形は崩れただの泥へ。
昔にどう思われていたなんて知らないまま、ただ通じないなら失敗だからと、作ったものはこうやってすぐに潰してしまっていた]
よ、と。
[そうしてできた隙を狙って、手元に作っていたすこし大きめの泥団子を、光に向かってひょいと投げる。
一見ただの歪な土の塊、投げるのもあまり上手くはない。
かろうじて方角は合っていたが、相手まで届かないかと思われた瞬間、――音を立てて弾ける]
[笑い声をあげる華月斎が痛みを堪えている事は坊主にも見て取れた。さりとて、彼が優位と思わぬように、坊主の方にも余裕は無い。
ただ揶揄う声に、瞳だけは、すう、と細めて]
怒ったか、だと?
[ゆらゆらと燃える鬼火を従えて、ゆっくりと立ち上がる]
怒ってなぞおらんとも…
[にい、と、坊主の唇が弧を描く、溢れた朱を、親指で、ぐい、と拭い、唇に残った血は、ぺろりと舐めとる。その間も視線は真っすぐに華月斎を射抜いたままで]
むしろ感心しておるさ、琥珀。
[低き声音は、熱を帯びる]
よもや、それほど馬鹿者だったとは、わしも想像しておらなんだ。
[光と闇と、異能の力のぶつかり合うその最中、どこまでも「人」で有り続ける男に、「馬鹿者」と揶揄するように言いながら、坊主は燃える鬼火を両手の周りに纏わせる]
だが、そろそろ、引導を渡してしんぜようか。
[ごうごうと、坊主の両手が燃え上がる、それは坊主自身の膚をも灼いている筈だったが、笑み佩いた顔は、その痛みを覆い隠して]
お返しじゃ!
[どん、と足を踏み込んで、華月斎の前へと、身を運ぶ、たとえ、その身に燃える拳が届かずとも]
燃えろや、琥珀ぅっ!
[突き出された腕からは、集められた焔が火の玉となって、華月斎の顔を狙って飛んでいく*]
説法師 法泉は、メモを貼った。
2014/02/20(Thu) 23時頃
……っ!?
[笛を一閃する直前、捉えた呟きに息を飲む。
直後に伝わったのは、泥が崩れる気配。
勢い良く踏み込んでいた事もあり、勢い余ってたたらを踏むが、舞の足捌きで強引に持ち直す。
そこに生じるのは、明らかな隙]
……くっ!
[投げられた土の塊は未だ遠い、と。
改めて力込めようとするものの、それは予想外の動きを見せた。
弾け飛んだ土の塊──それは避けるも打ち落とすも往なすも、どれも容易くないと思えたから]
……避けてる暇がないのなら、
進めばいいだけのことっ!
[なればと選ぶは、一気に駆けて距離を詰める事。
弾けた土が身を穿つならばそれはそれ、笛と右腕さえ無事ならば、とそこ以外の防御は捨てる。
庇う右腕以外には相応衝撃も走るが、足は止めぬ。
幼い頃から舞の基礎を叩き込まれ、その技を一通り引き継いだ身は軽い。
その軽さを、秋風の軽やかさに乗せて。
一平太に向けて、真っ直ぐ、駆ける]
……この、馬鹿、がっ!
[少なからぬ苛立ちこめて怒鳴りつつ、右腕を大きく外へと向けて振った後、下から、掬い上げるように跳ね上げる。
それにあわせて大きく孤を描いた笛は、下から上へ跳ね上げる動きの一撃を放つ形となった。*]
[こちらを射抜く視線から目が離せない。
少しでも意識を逸らしてしまえば燃やし尽くされてしまいそうな感覚に陥る。
故に息を飲み、相手の挙動をつぶさに見詰め。
動く機会を見定めようと]
だぁれが馬鹿や。
引導も遠慮しとくでぇ。
[揶揄や宣告に対しても態度は崩さなかったが、隙を見出せずジリジリ後退るだけとなる。
燃え盛る焔が法泉をも苛んでいると見えれば、嫌悪するように眉根を寄せ]
阿呆がっ!!
[声を上げ、相手の踏み込みと同時に後ろへと飛んだ。
そして腰に結わえて撓ませていた絹糸を右腕で巻き取るように手繰り寄せ、右手に握ったままであった千切った半紙を投げつける要領で絹糸を後方から引き寄せた。
その反動で川縁に居た人型人形と、それにしがみ付いて居る狐狸が宙を舞う]
[後方へ飛んだとは言え、避けることが出来たのは法泉の拳の直撃のみ。
放たれた焔は距離をものともせず華月斎へと迫り────]
あ゛あ゛あああああぁあぁ!!
[やむを得ず盾にした左腕を盛大に燃え上がらせた。
投げつけた半紙は蝶に変わることなく地面へと舞い落ちる。
いくらかは燃え盛る左腕の焔に触れ、火の粉と化した]
っ、 あ が、 ぐぅうう……!!
[飛び退る間に焔を受けたために着地に失敗し、踵を地面に引っ掛け背から倒れ込む。
爛れ、肉の焼ける異臭が漂い、左腕を抱えるように身体を縮こまらせた]
っ、ぐ、 …っは、 ぁ
……ぁ、 …ふ、ぐ
[荒い呼吸を繰り返し、扇は握ったままに地面に手を突き、俯き加減になりながら身を起こす]
…ん、にゃろ……
手妻、出来んく なった ら、どないして くれる…
[この状態ではもはや左腕は使い物にならない。
狐狸達は近くへと戻ってきたが、どこまで返し切ることが出来るやら。
左腕を垂れさせ、右膝を地面へと突いて法泉を睨み上げた*]
[ぱちんと弾けた土の塊。
だけれども、その向こう側から光は駆けてくる。
驚いたように瞬きして]
……無茶しぃだな。
[眼を細くする。
あのまぶしいものを早く喰うてしまえと、身の内宿す闇が囁いた]
[そうしなければ。
ずっとかくしてきたものが、あの光に暴かれてしまうぞ、と]
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