197 獣ノ國
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――まずさ、この國が陸続きなのかどうかが問題だと思うね、僕は!
[エンジンを吹かしながら僕はボヤく。
お手伝いさんはその時まだ僕の傍に佇んでいたか。 いたのなら、その腕を引いてやる。 当然のように後座席に乗せようとしたかもしれない。
そして友にはまだ見つかっていなかっただろうか。 万が一見つかってしまったのなら、お婆さんのフリをする。 練習し損だったからね。
それにしても、狼のくせに夜目はちっとも役に立ちそうにない!]
(150) minamiki 2014/10/14(Tue) 00時頃
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そもそも何人も見張りがいるかもしれないのに、無計画とはこのことだよ。浪漫の欠片もない!
――御伽噺なら態々出向かなくても南瓜なり差し出せば外に連れて行ってくれるだろうに。
魔法のマント、絨毯。そんなものがあればなんて思うけれど、…まぁ、高望みはしないよ。
[肩を上げて酸素を吸い込み、二酸化炭素を勢い良く吐き出した。 ハンドルを握り締める手は少し汗ばむ。 夢物語にはない物騒さだ。
メーターを調整しつつ、見よう見真似で運転を試みると思った以上のスピードが出て僕を驚かせた。
初めての試みはいつだって僕の心をワクワクさせる。
それは幼い頃寝室で読み聞かせてもらった物語の一頁を知る時のような心地。
炭酸の効いたジュースを呷っているような刺激的な光景だった。]
(151) minamiki 2014/10/14(Tue) 00時頃
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[流れる雲はどんなものよりも早い。 特急列車よりも、遅く。
ネバーランドみたいな幻想的な景色ではないのに、見るもの全てが奪われていく。
物は試しとヘルメットなんか買ってみたけれど、そんなもので覆い隠すのが勿体無いような晴れた日。
雨が好きだと言っていた彼もきっと気に入ってくれるといい。 そう思える空色。
遠くで鳥の囀りが聞こえたような気がした。 咲き誇る花々の隅で蝶が舞い、蜘蛛が巣を張り巡らせている姿を見た。
向日葵は残念ながら咲いてはいなかったけれど、陽気な太陽がいつかすれ違った金髪を思い出させた。
回る景色。小石が転がっていく。 僕の向かう先を迷わせるようにコロコロと散らばっていく。
小麦とは違い、味っ気のないそれは餌になんかならない。小鳥も犬も近寄らない。それでも確かに残っている。]
(152) minamiki 2014/10/14(Tue) 00時頃
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――それでも僕は、“献身的な愛”なんてものより…
我儘な愛の方が素敵だと思うね。
[花の名前を持つ國。
いつか本屋で目にしたその花に与えられた言葉を思い出す。
結局友の店にてそれを購入したことは一度もなかったけれど、脳裏に浮かべては失えた銀色を一度懐かしむように双眸を眇めさせた。
こんな顔は似合わない。 鏡はないけれど僕は確信して叫ぶ。]
(154) minamiki 2014/10/14(Tue) 00時頃
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Verweile doch! du bist so schoen!
[悪魔と契約した男が呟いた言葉。 契約の終わりを告げる台詞。
叫んだのなら、僕の命の行き先は地獄なのだろうか。
それとも――…?
そんなことは、今はどうだっていい。
頬を撫でる風を浴びながら僕は笑った。
始まったばかりの旅先の結末はまだ、綴られていないのだから。]*
(155) minamiki 2014/10/14(Tue) 00時頃
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―いつか 何処か―
[欠伸を何回噛み殺したか分からない。 この街の名前なんて覚えていない。
それほどまでに転々としていたものだから覚える気が無いというのが正しいかもしれない。
ほら、猫は住処作らないとか言うしね。]
――あれから何年経ったっけ。
[呟く声は昔よりは貫禄が増したようにも思えたけれど、半獣だからか。
あんまり老けていないような。 ポジティブに若作りと僕は捉えていたけれど。
あの後、上手く検問を巻けたかどうかは割愛しておく。
ちなみにここが何処の國かどうか、それは耳元でそっと囁く秘密ごとだろうから内緒。]
(169) minamiki 2014/10/14(Tue) 00時半頃
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[気紛れに僕は影を追うように足先を向けて、空を見る。 いつかと同じ空を見る。]
――何だい、そうやって晩酌をさせるつもりだろう、君。
[背後からかけられた声には振り向かずに言おうとしたけれど、僕も案外堪え性が無いらしい。]
……君って、本当に…馬鹿だね!
[お決まりのポーズに僕も同じ仕草を返しつつ、軽口を叩く。
軽やかに方向転換。 彼の手にある獲物を狙って。]
(170) minamiki 2014/10/14(Tue) 00時半頃
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――さあ、君の物語を聞かせてよ
[何処かで僕の物語を望む、ウソつき“だった”彼女にも届くように、唇は強請った。]*
(171) minamiki 2014/10/14(Tue) 00時半頃
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