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―― 舞台袖の個室 ――
では、奴隷の……いえお客様の所有物の、鍵になります。
ご存知と思いますが、
枷をつけたままですと商品と間違われますので、
お気をつけください。
[幾度となく繰返してきた同じ説明。
道化は主人となる人物に、チャリと金属製の鍵を手渡すのだ。
この品評会と呼ばれる宴が終わるまで、後何度。]
― 回想軸/道化の部屋 ―
[女の問いかけにはうっすらと微笑んで見せるだけ。
太い針は3本用意されている。合わせた花弁をじっと見据える灰青は、この時ばかりは些細なバランスを気にかける芸術家そのものだ。]
『嗚呼、暴れてもし失敗してしまったら……。
【作品】と成りえないカンバスに私は興味はないからね。
どうなってもしらない、よ?』
[動いて失敗したなら、命の保証はないと脅す。
針の先を受ける花弁側に、消しゴムのようなゴムをあてる。
針を一本取ると、陰核の近くにまず先を宛てた。
ルーカスは、ふっと息を吐き、指先にくっと力を込める。
躊躇いがあれば、そこが濡れていることもあり、容易に位置がずれてしまう。]
―――ぷつ……ぶつり…ぶつっぷつっ
[まず針先を宛てた厚い花弁の表の皮が破れる音。
花肉を進みその裏の皮が、続いてゴムを宛てた側の裏の皮、表の皮。
宛てたゴムを引くと、ぐっと針を貫通させる。
まち針のように仮止めで、針はそのままに。]
『一つ目は成功、かな。後二つだよ。』
[彼女が暴れなければ、同じように花弁のまん中、終点近く。
残り2点も同じように、針で穴をあけられ、止められることになる。]
―― 舞台袖の個室 ――
[男は脇の部屋で鍵を受け取る。
たった、2ptで手に入れた其れ。
くすくすと鼻から抜ける笑みのまま、
身支度を整える女よりも先に、その部屋で待つ。
女が姿を現わせば、口端をあげて言う心算だ。]
あの男の1500分のいちで買われた気分は、
どう…――?**
[呼ばれる名前はどこか荒々しく、そして切なく聞こえた。
「畜生」という声に笑みを浮かべるけれど、それはすぐ口付けに消える]
……――。
[埋めていくのは距離。一つ一つ順をおって。
埋められないのは隙間。それは、誰の言葉も、指も舌先も熱すらも埋めることは出来ない。
その身体はどんな男でも反応するように躾けられた。
その心はどんな男にも開かないよう躾けられた。
小さな反抗は夫の葬儀の時。
大きな反抗は、奴隷を初めて買って、自らの意志で抱いてもらった時。
結局どれも彼女の心を埋めることは出来なかったけれど]
[愛して、という言葉に返る反応は、少し足りない]
なあに? 言ったでしょう? 満足させて欲しいのよ。
ただ入れられるだけの情事なんて、つまらないもの。
それとも、私からの言葉を聞きたいのかしら?
[彼女は未だ微笑を浮かべている。
取る仮面などないのだというように。
胸元に滑り込んだ掌の温かさに、ふるりと震える。
割られた膝は絡むように膝を立てて。イアンの足に触れた。
形のいい胸はそれでも少し重力に比例して高さは常より低く、だからこその柔らかさが伝わるだろう。
頂は薄紅に色づいて、上を向く]
最後まで、言って頂戴な。
イアン。
[言葉は艶を持って。その目をじっと見つめた]
[表情は曇ったように見えた。
言葉を求めたのは、初めてで。
愛して欲しいといったのも初めてだったけれど]
違う?
言葉は、いえないのかしら。
貴方の身体は、とても求めているのに。
ねえ。
[腰へ回していた腕を前に、イアンの衣服へと手をかけた。
少し肌蹴させて、その胸板に触れる}
[腰へ回していた腕を前に、イアンの衣服へと手をかけた。
少し肌蹴させて、その胸板に触れる}
もっと、触れて。もっと、声を聞かせて。
――んっ。
[短く漏らした声は、先に触れた指の所為。
それだけで、女の身体は色を増す。
やがて聞こえた言葉に、笑みを作ろうとして]
ありがとう、嬉しいわイアン。
[笑みは、確かに笑んでいたけれど、泣き出しそうな顔をした。
呻きに、どこか心配げに見上げる]
[近くなる距離。触れ合う肌。手指。
首筋に埋まる頭を撫でる。
吸われると小さく声を漏らす。
舐められると喘ぎとなった声は体の中で更に震えて]
あ、ぁあ、……イ、アン……ッ。
[噛み付かれると体が跳ねて。更なる刺激を求めて捩る。
小指を口に含んで、切なく噛む。イアンの一つ一つの動きが、皮膚の表面と奥の両方から快感を生まれさせていくようで、ぎゅっと目を閉じた]
――あ、。
ええ。……ええ。
[繰り返される愛の言葉に、目尻から雫が落ちた]
[乳房へとその先へと繰り返される愛撫に眉を寄せて、止まらない悦を逃すために頭をかき抱く。
その度に声はもれて、部屋の中に響いた。
露になった上半身を見て感心したように息を吐く。手に落とされる口付けに目元は笑んで是を返す。
ドレスが取り払われると、白い肌が空気に触れた。
まるで男を知らないように見える傷も曇りもない白絹。
触れると吸い付くように、しっとりとした触感を残す。
見詰められため息をつかれると、頬を染めて目をそらした]
ぁ、……そんなに見ないでもらえると、嬉しいわ。
[脱がされるヒール、這う舌の動き、触れる指の硬さ。
ぞくぞくとした衝動が足元から腰まで上がってくる。
身体中全て。まるで暴かれているようだと触れてくる舌の動きに余り動かない頭でぼう、と思い]
わ。たし?
[声が聞きたいといわれて、震え火照る身体を両腕で抱くようした。
掛けられた言葉、吐き出しても苦しくなる吐息。
開放しようとして、腕を伸ばす。下から奪うように口付けた。
苦しさと切なさを体内から押し出してしまいたかった。
空気に触れた熱源へと視線が移る。ひくりと震えたように見えて息を呑んだ。
今からそれが中に入るのだと思うと、既に潤っていた女の中心はさらに濡れる。
手を伸ばす仕草は、常とは違いどこかおずおずとして、――触れる]
本当に、見て思っていたよりも、もっと凛々しいのね。
イアン、我慢して、又後で私を抱いても、いいのよ?
[それは、気まぐれなのかなんなのかわからない。
満足できなければ、それまで。そう言った筈なのに、今は満足できないことを恐れている。
もっと触れていたいという思いが、裡を占める。
熱くなった目から零れる滴は跡を作った。
このまま狂わされる前に]
なんて、貴方にとっては拷問かしら。
――ねえ、頂戴な。貴方を、私の中に。
入れて、乱して。多少のことでは、この身体は壊れないわ。
貴方を、待ってるのよ。
[強請る言葉は耳許で囁く。熱に触れた指先に滴る滑りを絡めた]
[掛けられる言葉と施される愛撫で本当に愛されていると錯覚しそうになる。
溢れた涙は容易に仮面を崩させた。
――本当は愛してなどいない。
なのに言葉にするのは卑怯だと思うのに、彼には言葉を強要した。
本当はどう思っているかなど知らない。今、このときには関係ないのだと思うから。
それでも心の充足は躾けられた体に変化を齎す。
欲されているのだという事実が、身体の中心から熱と蜜を溢れさせた]
イアン、……ぃしているわ。
[言うはずのない言葉は、気づいたら口にしていた。
耳元に唇を寄せて、言葉を返し。けれども掠れて、音にならない。
耳朶を食んで首筋に痕の残る口付けを一つ]
もっと、触れて。触って。――満たして。
[今度は首根に、胸に指で触れてから唇を落とした]
― 舞台袖の小部屋 ―
[微かに悲痛めいた表情を見せるNo,1。
男は満足げに眼を眇め、べたつく髪を掻きあげた。
そのくびれた腰に手を伸ばし引き寄せて、
其の侭口唇を、自身の其れで覆い尽くす。
ねっとりと咥内を犯し、彼女の舌の先に歯を立てるのは、きっと彼女も在る程度の覚悟ある行為だっただろう。
彼女の舌の先を、ぷちりと千切る。
どくどくとでる赤を吸い、飲む表情は恍惚として。]
[彼女の頬を、顎に向けて手が滑る。
つつと首を這い、鎖骨を撫で、胸の上。
爪を立てるのは、丁度中央。
鎖骨の間から胸の下迄、縦にギリギリとゆっくりと。]
[上から下に爪がつけたラインを
下から上に、舌が這う。
鎖骨まで上がった後、顎を食み咥内の血をまた吸い。
喉奥を鳴らす男の下肢、女の腿に触れる男の中心は熱を持っていたが、男はそのまま身を離した。]
――じゃあ、客席に戻るから。
ボクの「椅子」になって?
[男は品評会にすぐに戻る心算**]
[手を口元に当て、ルーカスの方に身を寄せはするが
それはただのみせかけだけ。
別段、話す事があるわけではなく。]
No,5が、もしに何か入れ知恵してるんだったら。
No,5を買って、No,2を売れ残りにすると面白いかな、とか思ったけど、――No,5が他人の為に泣くとも思えないんだよね。かといって、死ぬのも怖くない風だし、
[椅子の尻をぺしりと一度叩き。
独りごとは舞台には聞こえない。]
ね、No,1、No,5はどう――
[言い掛けて、はたと言葉を止める]
君の名前を聞いておこうか。
名札には数字より名前がいいものね?
[自身の下の椅子に問いを投げた。]
…ボクが此処に長い事いると、
おびえさせちゃうかなァ。
[椅子の胸元につけた傷から薄く香る鉄錆。
自分の物だと言うしるしのような、それ。
見下ろした指の爪の隙間に赤い肌が残っているのに気づき、カリ、と歯で取り出した。
歯でかむと、くに、と、小さな歯ごたえ。]
…――ジェレミー、楽しんでるかな…
[早速車を手配していた自身の秘緒を想い
小さく、笑みを零した]
…――まァ。
莫迦な貴族だ、なんて思う相手に踏みつけられて
従うしかない状態――ってのも、モエルけどね。
[くすくす笑みとともに呟くのは
ルーカスの同意は得られずとも、
ヨアヒムの同意は得られてしまうのだろう。]
[イアンから降る言葉に、微笑を浮かべた。
常の微笑とは違う、柔らかさと、切なさと、苦しさを伴った微笑み。
駄目だとも何一つ言っていないのに。
その心の裡は誰にもわからない。彼女にさえも]
……何、言ってるのかしらね。わたし。
[呼ばれる名前。幾度も。
その度に何かが、落ちていく]
狂っても、私のことは憶えていて。
身体だけでも、いいの。
――…イアン。貴方はもう、私のもの。
そうだというのに。
どうしてだか涙が出るのよ。
[下着が取り払われ、荒い息が中心に当たる。乱暴にも思える愛撫にも身体は幾度も震え、嬌声は高く。
花芽を噛まれると、痛みと快楽が同時に押し寄せて、あげた悲鳴は声にならない]
欲しいの、ねえ、早く――。
[我慢できないとばかりに声にして。
漸く望んだものが裡へと入り込んでくる]
ふぁ、あ……っ!
や、イア……ん、もっと、もっと、くるわせて。
[内襞は逃すまいと吸い付いていく。分泌された愛液はそれを包み込んで、裡へと誘う。
唇を噛んで、襲い来る波を留める。押進められる腰の動きに自然と腰が揺れた]
は、あぁ。
ねぇ。
貴方も泣いているの? どうして。
ねえ。
……。
あいしてるわ。
[今度はちゃんと声になった]
― 現在軸/客席 ―
[ヴェスパタインが戻ってくる前の事。
女の胸元で、りぃん――と鳴る鈴の音と共に聴こえた、女の頷きに、ルーカスは薄く笑った。]
『嗚呼、頑張りなさい……―――』
[不意に伸びた男の指先は、着物の下肢のスリットにかかる。
ちりん――胸元でなく、下着をつけさせなかった陰部でも、鈴の音が鳴る。3つあけたピアス。陰核に一番近い場所の輪状のそれには、鈴が通されていた。鳴らすのは一度のみだったが、ルーカスの機嫌も損ねるなという言葉を受け入れた以上、女はそれを拒否することは出来ないだろう。]
― 現在軸/客席 ―
[やがてヴェスパタインが戻ってくる。
椅子となった女奴隷の此方に向けられる下肢に、灰青を一瞬だけ向け、唇の端を持ち上げた。それは、言いつけ通り、ヴェスパタインの機嫌をとるような志乃にも、密かに向けられたものでもあった。
そして、特別なにか語るわけでもなし、商品を揶揄う為に身を寄せてくる相手に、No.5がした事の一部始終を此方は語る。]
――……此方側に戻ってこれると、まだ云えるあたりが
萌えポイントになるんでしょうかね。
[
[最後に男に抱かれたのは前の奴隷を買ったとき。
同じように、一度と言って抱かれた。抱いたようなものかもしれない。
イアンのように恵まれた体格でもなく、どちらかといえば痩せた身体は、ただ入れただけのセックスだった。
男が気持ちよくなっただけの。
それでもメイドと絡ませれば奴隷としての役目は果たしてくれた。
その前の奴隷は背は自身より低かったが、物は大きく、けれどもやはり彼女を満足させることは出来なかった。
その前は夫婦生活のない冷えた夫婦関係だったが、家に戻りたくない彼女は愛人を作ることはなかった。「貴族の娘」であり「社長夫人」である彼女にとって、社会的なスキャンダルを作るわけにも行かず。
そのように教えられていたことも理由の一つ]
[言い寄ってくる息子は夫との関係を知っていたから余計に抱かれる気もなかった。
夫であった男は、彼女を見ていなかった。見ていたのは、彼女の身体と地位。
若くして嫁いだ彼女にとって、恋愛関係にあった男は片手で足りる。
ただ、どの男も長くは持たなかった。
彼女が、彼らで満足することはなく、仕方なく演じていたのを気づかれ、または飽いてしまったから。
彼女に「調教」を施したのは彼女の父親だった。だから今も、父親を嫌悪している。
けれども良い父親だったことも記憶に残っていて、それは僅かな思慕となった]
[施された「調教」。それは淑女のように生娘のように振舞いながらも身体は熟れて、また身体を開く相手を選ばない。
男を満たすことは出来ても、自身は満たされず、篭った熱が外に発されることはない。
父親以外には。
だから、今度も同じように満たされることを望んで、けれど半分あきらめて、抱かれた。
イアンのそれは、彼女の中で熱く脈打っていて、それだけでもどうにかなってしまいそうだった。
――満たされたい。
願いは、細い糸を手繰り、結ばれようとしていて]
― 回想軸/道化の部屋 ―
[女性器へのピアッシングは、初めの1回と合わせて3回行われた。
女があげる悲痛な叫び声は、まるで鈴の音のように儚く透明に、幾度も道化の部屋に木霊し、やがて消えた。]
『良く頑張ったね』
[3つ目が終わり、ルーカスは一度身を起こした。
呆けたような女の、眦に滲んでいた雫を、まるで優しい人のように、教師が生徒を褒めるような言葉を紡ぎながら拭う。]
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