人狼議事


103 善と悪の果実

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 善と悪の果実も ………

[くしゃり。赤い布のたてる音は、少女の耳には湿って聞こえた]

 …嫌ね

[くちゃり、ぴとり。
赤は嫌いだって何度言っても、よく似合うよと笑う父親を

嫌いにはなれなかった]




 ………――っ、く  くくく。
 
 


[濡れた烏の色は、闇よりも深い。
罪と命を塗り重ねた色。
温度のない、ニタリとした笑みを湛え。
喉の奥を不規則に鳴らした。]

 犬は、飼い主に従順なんかじゃない。
 喉笛を噛み千切る機会を、今か今かと狙っているんですよ。

 ――大人しいふりをして、ね。

[濡烏、鉄錆、酸化した銀、煤にまぎれた―――赤。]


[赤く彩られたその髪飾り。
熟れた果実のような色。
金を彩るその赤に、濡烏はつうと細まる。

まるで罪の証のようじゃないか。

金の林檎に滴る赤を髣髴させて、僕は笑った。
そう、―――わらったんだ。]


 嗚呼、あれが『善と悪の果実』。

[呟いた言葉はパーティの喧騒に紛れ。
その眼差しを知れるのは、そう。
同じような高さの視界を持つ者以外にありえない。

自慢げに披露する魔女の、露になった白い喉笛を見つめる眸。

今か今かと、時を待つ。
濡烏の眸を向けて――…**]



楽園に果実が落とされるというのならば。

―――――…私(わたくし)は、蛇になりましょう。**


[垣間見えた少年の笑みに瞬いた、その瞳には
不快も不安もそこにはなく、ただ理由を思う不思議と、好奇心がのぞいていた]

 …変な子、使用人かしら?

[おそらくは招待客――果実に惹かれた一人だろうとは思うものの、同列に扱われることへの抵抗は薄れずに、視線を逸らした]



―――――…ふふふっ。
   



嗚呼――――――――…。


きみが、愛おしい。
  


[――それは幼い貴族の少女にも、
 見覚えのある髪飾りだっただろうか。

まだ、ブロワ家が栄華を誇っていた頃。
遠い遠い昔。
学者が捨てられた時。

父母が最後の情けにと、持たせた髪飾りだった。
彼らは学者が其れを売り払って生活を凌ぐと考えたのだろう。
しかし、学者はそうはせず、髪飾りを大切に持ち続けた。

黒い蝶の髪飾りと対になる、赤い蝶の髪飾り。
かつてはブロワの屋敷に置かれていた筈だ。
今はもう、売られてしまったのかもしれないが]





君をどうか、僕だけのものに。


  


[母が最後まで大事にしていた髪飾り。
赤い蝶は、羽ばたくことができずに、ずっと屋敷に囚われていた。その羽を広げたまま、震えることすらできずに、ただ、ずっと。


そして今も、少女の手の中に。

対となるものがあるとは知らず、ただ母の形見として布に包んで持ち歩いていた。
待つ者のいない屋敷にはおいていけないと、鍵のかかった箱から出して、懐へとしまいこんだ。
ただ、持っているだけで、一人ではない気がしたから]


[――否。

細める眸は果実だけを見ているのではない。
この大広間を見渡しているのだ。

誰がどんな表情をしているのか。
反応を窺っている。


出し抜く為の算段を。
あれを奪う計画を。
だから近づかず、遠巻きに。

恐怖や畏れなど、とうの昔に失った。]


 どうすれば近くで見られるかしら

[グロリアに頼めば、と
幼い思考がゆきつくのは単純な帰結。

パーティーが終わったら、今度こそ会いに行こう。

金銭の無心というもうひとつの目的は、林檎を目にした時から頭の中から消え去っていた]


 恐ろしい果実を持つ貴女は、さしずめ魔女のようだ。

[そこにはいない女主人を思い、唇が弧を描く。
あの林檎を盗み出せば、恐らく一生を楽に暮らせるだろう。

見せびらかすから悪いのだ。
目の前にちらつかせるから悪いのだ。

“魔女”は磔にしなくては――…**]


[その最中、壁際の椅子にかける少女の前を通過する。

黒い蝶は彼女の眼からもよく見えるだろう。
それは偶然を装うようで、
敢えて行った行為であったのだけれど。

行儀よく座る姿へ数瞬のみ視線を向けて、
にこりと柔らかな微笑みを浮かべた]


…お疲れですか? レディ。
どうかご無理なされませんように。


[囁くような声は、彼女以外には聞こえまい。
今はまだ、そう声をかけるにとどめて]


[烏の眸は射る。
そこには冷たい憎悪と羨望を持って。]


 ……………。


[言葉はない。
ただただ、“男女”と思わしき二人を見詰めている。]


[ただ、"蛇"はその強い眼差しに灯る意思を感じて]


――――――――…ふふっ。


[小さく、小さく、笑ったのだ]


[黒い蝶が、羽ばたいている]

 ……… ぁ

[小さく洩らした声をかみ殺して、唾を飲み込む。
赤い蝶が眠る薄紅よりも、ずっと鮮やかな流れるストロベリーブロンド。
近くで見ればそれはやはり同じようで
でも自信がなかった。
赤い蝶を起こして確かめる気はなかったけれど]

 ……ええ もう随分よくなりましたの

[少し強張った笑顔。
今はまだ、見送るのみで]


 …………ふっ。

[笑みには笑みを。
黒く塗りつぶされ、光さえ灯らぬこの眸に
“蛇”のような女の顔を刻み込んだ。]




[そして齧れば――


蜜が滴るほど甘いのだろう]

 


[少女の髪の赤へ。
そして林檎と似た色の髪へ。

その視線の先。
――否、その眸。

甘い林檎の蜜を啜ろうとする、そんな眸を烏は捕らえる。
微笑を向けたのは、扉をすり抜けるほんの一瞬前。]


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