[けど、どうしても、あたしはそのフォークを手に取ることができなかった。
逸らした視線を膝に落とし、少し震える手でぎゅっと拳を作る。
折角声をかけてくれたのだ、何か返さなくては。
けど、喉に何か塊がつっかえたように、言葉が口に出せない。
これは何だ。
緊張か。]
『きみのぶん、キッチンにも取っておくから、お腹減ったら食べてみて。』
[そっと付け足された言葉には、気遣いがにじみ出ていた。
立ち去る気配に、あたしははっと顔を上げる。]
ぁ、ぁりが…
[ありがとう、その一言が、こんなにも発音しにくいモノだったなんて。
そうおもうくらいに、不恰好で消えそうな言葉だったけれど、それはあの人に、届いたんだろうか。
ちゃんと言えなかったことにまたいたたまれなくなって俯いてしまったあたしには、確認の仕様が無かった。
結局タルトには手を付けられないまま、あたしは部屋へと入ってしまう。]
(401) 2014/03/17(Mon) 11時頃