[マーゴが試食をしているのとは少し離れた場所で、ミッシェルが黒い物体の乗った皿を差し出している]
げ。
[苦い記憶がよみがえる。いや、むしろ口の中に甘ったるい感覚がよみがえるというべきか。そう。その物体(ケーキ)は、それはもうただひたすらに甘いのである。生地に混ぜる砂糖の量が半端でないため生地はボソボソになり、中に入れてあるドライフルーツもシロップやシェリー酒に漬けられて砂糖の固まりかと思うほど甘くなっており、さらに仕上げにはジャム、砂糖、シェリー酒を火に掛けてカラメル状にしたものがタップリとかけてある。それはそれはもうただひたすらに甘い料理なのである。]
……。
[一瞬の躊躇の後味を感じないように無理やり一気に飲み込んで……]
……。いつもの味ですよ。
[ほっとして余裕が出たのか飲み込んだ後で口の中にほんのりとシェリー酒の香りが広がる。……。カラメル状の部分はお袋の作ったものより出来が良かったのかもしれない。]
いや、やっぱりいつもよりは美味しいかなぁ?
[それを聞いて笑顔で二切れ目を差し出すミッシェルを見て、思わず逃げ出した。]
(319) 2010/07/28(Wed) 23時頃