あれ、もう行っちゃうの?
何かサービスでもしてくれると思ったのに。
ふふ…また、ね?
[冗談めいた声をあげながら、ひらひらと手を振る。
スカートをたくし上げる様子は一介のメイドに見えなくも無いのに、猛禽類のように何も見逃さない瞳を持つ彼女は、まさに「隙」が無いドーベルマン、と例えるに相応しいと、思う。
自分が買ったら飼い慣らせるか、無理なら壊すか、それとも寧ろ――妄想は頭の中。
舞台で行われていた派手なショーに手を出さなかったのも、隅々まで見て想像し、可能性を逃さない為。
頭の中だけでまず愉しむ、それは何不自由無く安穏と生きてきた男の暗さでもあり陰湿さでもあり浅墓さでもありまた、公には出来ぬ趣味を持つ事の自覚の表れでも、ある。
競りが始まってからでも触れて試すには十分時間があることはわかっていたし、沢山の兄弟が居ても何時でも優遇されてきた末弟である男は、おいしいものは最後に食べる事が出来たから。]
(264) 2010/04/07(Wed) 12時頃