―中庭→自室―
(くそ、くそ、…くそ、)
[かつかつかつと、普段より大きな音を立てて、そのまま階段を上がる。
まるで自分ひとりだけ笑い者にされたような羞恥に、磨かれた床に乱暴に靴底を叩きつけた。それで気が晴れることなど、なかったのだけれど。
きっとマスクでも隠しきれないほど、その頬は朱く染まりきっていただろう。とにかく誰にも会いたくないと、足早に病棟を抜けた。]
………っ、
[逃げ込むように自室へ飛び込んで、カルテの高く積み上げられた机の上に、ずっと手にしたままだった飴玉の袋を放り投げる。
几帳面に整えられたベッドへ、そのまま上体を投げ出して、洗剤の香るシーツに顔を埋めた。掴んだ箇所にはぐしゃりと皺が寄る。]
………、くそ、
[けして馬鹿にされた訳でも、悪意をもって貶められた訳でもないことは、分かってはいる。
少なくとも中庭で会話を交わした面子に、そんな人間は居ない。それも、理解してはいる。けれど。
此処へ来る少し前。何が気に入らなかったのか、ひどく狡猾な方法で回りくどく自分の立場を貶めた、かつての同僚だとか、上司だとか。そんな奴らの顔が嫌でも蘇って、ぐるぐると吐き気にも似た感覚を覚えた。]
(231) 2014/06/23(Mon) 00時頃