[三黒が綴る仰代麗亞の報告書に目立った変化は出る事は無く、
警戒を張って居た筈の他家からも何時の間にか気も緩み、
三黒の家の者は完全に彼女の存在に馴染む始末。
むしろ彼女が来てからはやりたい放題たっだ当主がきちんと家に居ると有難がる者さえ居たのだが、それは今はどうでもいい。
硝煙と紫煙。
変わらぬ二つの香を漂わせ、上着や武器は廊下の途中で使用人に剥がされた。
軽装であるスタンドカラーの白いシャツと、黒のスラックスを身に纏い、
火傷の滲む手はそのままに、手袋は、先ほどのコートと共に使用人の手の中に。
廊下を歩く黒の足音は、きっと客人にも聞こえていただろう。
片側に庭の覗く木製の長い廊下を踏みしめて、
足音は、部屋の前で止まったか。
火傷の手が、ゆるりと古い障子戸を撫でる。
一枚隔てた向こうから香る料理の香と、人の気配に眉をひそめて。
僅かな木の摩擦抵抗と共に軽い扉を横に引けば、目が合ったのは見覚えのある青い瞳。]
(226) mzsn 2015/09/25(Fri) 02時頃