[Aの習慣は「記録をつける事」だ。
取り扱った案件を手書きで手帳に書き留め、大げさなサイズの耐火金庫に保管している
データとして残す事はしない。発達した情報ネットワーク社会においては、利便性を捨てて
アナログに徹する方が防衛力は高まるのだ。
年月を重ね、手を汚すごとに積み重なっていく手帳は、未だ広大なスペースを残す金庫の中において
人体に脈打つ心臓を思わせる。鼓動など無くとも、他に物があったとしても。
それ以外に、この金庫に・・・いや。この部屋の核たりえるものなど、生まれようはずもない。
また一冊。ページの全てを埋められた手帳が。幾つ目かの心臓として金庫に収まった。
手帳一冊を使いきる。やや不規則な周期で訪れるその日に、Aは決まって過去を思い出す。
忘れまいと思うためか。
思い出すまいとしてなのか。
それはAには解らない。]
(216) 2018/10/05(Fri) 23時頃