[背を向けたところで後ろからから制止の声。
踏み出そうとした一歩を止めて振り返ると、内側から扉が押された。開いた細い空間から本田が顔を覗かせる。>>199]
『あの…ありがとう、ございます』
[出逢ったばかりの男に寝起きの姿を見せるのは躊躇われるんだろう、半分だけ顔を見せた彼女が、控えめな声で礼を述べてきた。
わざわざ、顔見て礼を言うために開けてくれたんだろうか。やっぱり、律儀。いつかと同じに感心する。
こんな状況で、今しんどいからあっちいって、くらい言ったって怒ったりしないのに。
考えながら本田の顔を見詰める。相手の視線が少し泳いだ気がした。
悪夢のせいでうなされたんだろうか、きれいに整えられていた前髪が、少し乱れて額に貼りついている。
──怖い思いをしてたのかな。ひとりで。
胸骨の奥の方がちり、と痛む。
無意識に手を伸ばして、彼女の額に貼り付いた前髪をそっと摘み上げた。指先が額に触れるか触れないかの距離。
整える様に手を動かして、────]
(212) 2014/03/19(Wed) 20時半頃