[――ましてや、通りすがりの男に新聞を買ってやるお人よしだなんて見抜けるわけもなかった]
は?
[そこの彼に、と指し示されたのは、ちょうど新聞売りを通り過ぎようと方向転換した、その瞬間。思わず振り返ったのは、自分を示してのことと思わなかったが故。どこかの車両で赤毛の少女が同じようなことをしたとは勿論知らず、前を向いたサイラスは少し迷って、もう一度足の向きを変えて新聞売りに近寄った。
背筋のせいか、荷物のせいか。
ルーカスよりも幾分背の低い男に、先ほどと同じように胡乱げな視線を向ける]
………。
[無言で手を差し出した。
つい先ほど、チケットを奪った手。
同じように、今度は新聞を取り、やはり手を引いた。
ばさり、と紙がざわつく音がする。
きっと受け取った、それだけなのに思わず周囲を見渡せば、真っ白なコート姿が、視線をひきつける。
人生は交差しない。サイラスは、そのまま言葉をかけずに、当初の予定通り新聞売りの男とすれ違う。そして、大荷物の男からも離れていく]
(181) 2015/11/29(Sun) 00時頃