[実のところ己だって、降り積もる白銀などまともに見たことがなくて。
だから、雪と聞いて真っ先に浮かぶのは
幼子に目線を合わせてくれた少女の、美しい髪だった。>>115
あの日の少年は彼女の提案にすっかり舞い上がり、考える間もなく頷いたのだ。
それからどれぐらい二人の練習は続いただろう?
己は随分やんちゃな子供だったから、密かな望みと少女との時間を誰かに知られて笑われるのが恥ずかしくて。
『絶対に秘密だよ。』なんてお願いをして、相棒にも言うことはなく。
人目を気にしたそれはあまり数を重ねない代わり、オーレリアが嫌にならなければそれなりに長い期間を間を空けながら続いただろうか。
それはきっと、互いがまだ子供だから許された、二人だけの時間。]
……え?
ううん、なんでもないよ。ちょっと疲れただけ。
[いつかの練習の後、癖の手遊びが彼女の目に留まり、顔を覗き込まれた記憶がある。
自慢の先生は歌が上手いだけじゃなく、出来の悪い生徒をしっかり見てくれていて。
指摘されたのか、彼女の様子から察したのだったか……誤魔化しが通じなかったことはすぐに知れた。]
(176) 2016/11/13(Sun) 20時頃