[森の中をひた走る。
足場の悪さは夏生の疾走に余り影響を及ぼさない。硬く重たい筋肉では無いが、バネのようなしなやかさが抜群のバランス感覚を生み出している。
草の生い茂る悪路を一度も転ぶ事なく廃屋に辿り着いた。]
……っぐ、
[どさり、と床の上に生ハム(原木)を投げ出すと、律木を膝の上に抱きかかえたまま、壁に凭れてずるずると座り込む。右脇腹に鈍い痛みが走る。
走り出した瞬間に背後からの一撃、ゴリラーーではなく、伊藤の放った凶器…恐らくは、凍ったリスであろう。]
っは…やるじゃ無ェの、伊藤サン。
[ぜいぜいと乱れた息の合間、苦笑と共に漏らした。
凍ったリスとかノーマーク過ぎる。今後あの武器には気を付けねばなるまい。
己の油断を省み、額を滑り落ちた汗を拭おうと片手を上げてーー思い出した、膝の上の女性の存在。
青い顔で口許を押さえる、律木 市。]
(165) 2013/10/23(Wed) 22時頃