──…俺は、山奥の集落で育った。
子供は俺一人だけ。一番近い年頃でも一回り上の年齢で。
父と母は年に一度しか帰って来なかった。
[すう、と目を細めながら、語らずにいた過去を口にする。
うちの伝統的な民芸品のひとつだ、と紐を指差して。]
幼少期はサンタを信じていなくて、与太話だと思っていた。
だが長老の、サンタ養成学校の話を聞く内に興味が湧いた。
情報理工学部を選んだのは……手紙も書けない子供を、
周囲に遠慮して願いを口にしない子供を、救えたらと。
[押し殺した本当の願いは、叶えられないとしても。
夢の中で素直になった彼らの、小さな願いは叶えてやりたい。
とまでは、言うに言えない話ではある。割愛。
妙に気恥ずかしくなり、寒さ以外で頬に熱が集まった心地に掌で顔を叩き、必死に冷静を装って。
隣に座る彼の表情を、ちらりと盗み見る。]
(155) 2015/01/26(Mon) 07時半頃