……でも。
演じる事なんて……出来ない。
お願いだから、"名前"で呼んでちょうだい。
[頬を撫ぜる手の感触に、ほうと息を吐く。染めた頬は、恐らく先よりももっと熱をもっているだろう。
……漸く、彼が何を"期待"しているのか、分かった気がする。もしかしたら、この考えはジャニスのただの思い上がりかもしれない。けれど、乞うみたいに下がった様に見えた眉は勘違いなんかじゃないと、そう思いたいから]
ルーカス。アナタは、悍しくなんかないわ。
そしてきっと、アタシも乙女なんかにはなれない。
……そんな綺麗な存在じゃ、いられない。
[頬に触れた手と、巣を潰す手と。その両方を包みながら、ジャニスは身を乗り出す。ワイングラスが倒れて、真白いクロスに赤い染みを作ったけれど、そんなのどうでもいい。ただ、目の前の彼だけを見詰めて]
アタシはもう、"逃げられない"わ。
――とっくに、囚えられていたみたい。
[包むてのひらに力を込め、顔を近付ける。重なる程の距離でそう囁いたのなら、そのまま。震える息を吐き出す唇を、そっと。彼のそれと重ね様としただろう。酷く緩慢な所作だったから、逃れる事は容易だったろうけれど]
(143) 2014/10/05(Sun) 20時頃