黒猫にとって城の生活は至極快適であったが、ひとつだけ不満があるらしい。どうやら城主に与えられた銀の首輪はお気に召さないらしく、時々にゃあにゃあと声を上げては首輪を外そうとするのだ。だが子猫の力でそれを外すことなどできるはずもなく、首輪は虚しく首の周りでくるくる旋回するだけであるのだが。
それでも奇妙な程に猫が寵愛されている理由は何だろうか。
猫は知る筈もない。まあ、知る必要がないのかもしれないが。
名前を呼ばれ手を差し伸べられれば、時に応じて、時に逃げる。その手に噛みつくこともしょっちゅうだ。猫は猫なのだ。それ以外の形をした生物の都合など、知る筈も無い。
白薔薇の香る広間で、黒猫はふわあと欠伸をして、全身をぷるぷると震わせている。遠くで城主が己の名を呼ぶのを聞き、今日はそちらに行ってやろうと足を向けた**
(123) leeha 2010/06/28(Mon) 18時頃