>>111
[隻眼の男はどう見ても「薄汚れた街に棲まう者」の風貌にしか見えない。己もまた数ヶ月前まではそういう者のひとりであったのだが、それに関して告げたとしても、隻眼の男にとっても己にとっても何ひとつ得になることは無いので、口にすることはないのだが。]
……いいえ。私めはこの城の執事にございます。
旦那様に間違えられるなどとは、畏れ多きこと。
[常のように、借り物のような、仮面のような言葉を淡々と口にする。]
お客様……ですか。
貴方もそのひとりに「なりたいのでしょうか」?
旦那様とお嬢様がお許しになるならば、私めはそれに従うのみにございます。わざわざ雑用までしていただく必要はありません。
[首に填められた銀の輪が、シャラリと小さな音を立てた。]
……貴方様がもし「紳士」でいてくだされば……の話ですけれども、ね。
(116) 2010/06/19(Sat) 01時頃