― ネオ・トーキョーの一画 ―
[そこは随分と栄えた様子の街だった。
辺りにはビルが樹々の如く立ち並び、猥雑な音に塗れ、排気ガスと食物と体臭の混じった嫌な臭いに溢れている]
……気持ち悪い。
[吐き捨てるよう呟き、二階建てのビル程もある街路樹の枝に凭れ掛かる。
流石に、無策で突っ込むような馬鹿は遣らない。昔とは立場も地位も違う]
[行き交う人々の群れをじっと見詰める両の瞳は、常のオッドアイでは無く左の薄氷色。
斑の髪も黒一色に揃えられ、服装も至って平凡なシャツとパンツに変わっている。
人狼族とは決定的に違う尖った耳だけは消せず、帽子の中で窮屈そうに時折ぴくりと動く]
[一見すれば長身の女性か成熟期前の少年かといった体を装ってはいるものの、普通人間は街中で木に登る事が無いという常識は意識の外。
その姿は、色形こそ違えど、羽沢夫妻を殺害した者に酷似している]
(112) 2011/12/13(Tue) 02時半頃