こんにちは。お花を頂けるかい。
小さな花束にしてほしいんだ。
[エリオット氏は穏やかな声音で、少女に声をかけた。
今日は髭も剃り、髪も丁寧に梳いてある。普段よりは、幾らかましな見目だ。
少女の栗色の髪が、穏やかな風に揺れる。
その様子が、ふと古い記憶を呼び覚ました。
まだずっと若かった頃、栗色の髪が美しかった、彼の最初の女に言われた言葉。
『あんたはさ、仕事さえちゃんとしてりゃ悪くない物件なのに』
今思えば失礼極まりないのだが、当時は真面目に傷ついた記憶がある。それすら、今は良い思い出だ。
そういえばあの女は、あんたの柔らかいテノールが好きだ、と良く言っていた。だから、いつだって彼は声を荒げることをしない。親切だが失礼な編集者に余計な世話を焼かれた時だって。
そんな、どうでもいいような連想と共に、百八十数糎の木偶の坊は花売りの返事を待っていた。]
(101) 2014/07/08(Tue) 20時頃