[この街では、毎日誰かが死んでいく。
それは名前も知らない誰かであったり、祈祷を頼んできた誰かであったり、或いは近しい誰かであったりする。
ある時急にいなくなって、それが終の別れであった。ということも、よくあることだ。
だから後になって誰かから、粉屋の主人は死んだよと聞かされても。
狐はこう言うだろう。]
そうですか、それは残念です。
寂しいものですね。彼の粉、贔屓にしていたのですが。
[残念なのは本当で、寂しいのも本心で、粉が買えないのは深刻だ。
それなのに妙にあっさりとしているのは、順番が回ってきたのだな、くらいにしか思っていないからだ。
この街では、毎日誰かが死んでいく。
明日は、取引のない相手であればいいなあ、なんて思いながら。
狐は束の間の雨が止むまで、粉屋の軒先に佇んでいた。*]
(93) 2019/10/12(Sat) 00時頃