―― 回し車を押し続けるのは、もう止めにする。
[ 滑車は止まった。
陽の掛かる室内は柔い色を落とし、しかし近づく冬の空気にしんとした感触を滲ませている。硝子箱の向こうに静かに頬を緩ませれば、もう一度端末を開いた。幾つかの項目を流し、ただ一人へ。
呼び出しかけた所で>>78 開いたそれが震える。表示されたその名前に瞠目し、コールを止めて耳元へと向ければ、流れる声には静かに相づちを打った。
……俺も家出ようと思って、と小さく挟み。
――やがて届いた言葉には、壁に掛けていた背を放した。
相手の家の場所を手短に聞けば、支度し終えた身を自宅から路地へと移す。晩とは異なり陽は道を照らしていれば、標とした近な塔へと足を進めた。
見知ったそこを叩く跫音は、以前のような響きでなく。習慣付いた斜の景色にもまた暗灰色を緩めながら。]
(90) omusouu 2014/10/12(Sun) 21時頃