[勧誘にはあまりにも単純に頷かれてしまいましたが、やることは変わりありません。
首筋をぱくりとして、たくさんの血を吸い
体の力をなくしたフィルへ、自分の手首から滴る血液を垂らしました。
それから、シーシャは、夜空にふたつ、余計に三日月を浮かべて
人間をやめていくだろう彼を面白そうに見下ろしていましたが
『またな』と別れの言葉を告げて夜の森を後にしました。
夜はまだ長く、シーシャはまだ、おなかが減っていたのです。
その時にはまだ、血を分けた彼の名前を知らないままでした。
そしてフィリップはいま、この古城にやってきて住んでいます。
住んでからのことはきっと、彼自身が語るほうが正確なことがわかるでしょう。シーシャがわかるのは、フィルは、鳥が好きで、空を飛びたがっていた、不思議な青年だったということだけでした*]
(72) 2016/12/01(Thu) 00時半頃