― 壱区にて ―
[家を抜け出ると遊女達が何やら色めき立っている。話を聞けば色男がすぐ其処へ来ているらしいが――、商品如きが浮ついて。
そんなんだから金が逃げていくのにねェ、と溜息をひとつ。亀吉にあれ等を締め上げてもらわにゃァ、と考えながら人集りを裂くようにして。
その核を目指す。あァ、もう。これじゃァ営業妨害ってもんじゃァないよ。]
――主、わっちをご指名でありんすか?
[視界に映った見慣れた人影はこんな傾城町に好んで来る筈もない人間で。此処までどんな気持ちで来たのだろう、と想像するだけで面白い。
今にも大笑いしてやりたい気持ちを噛み殺し、静かに男>>64に歩み寄ると着物の袖を此方に寄せて。『ようやく“遊ぶ”気になったのかねェ?』と揶揄うように問い。]
ほら、御仁はアタシをご指名だってさァ。
商品は散った、散った!
[片手で塵芥を払う動作をして女達を散らすと紫煙を吐きだし、男を見つめて。]
で、“ご指名”の理由は何かあったかしら、
[お遊び希望ならお安くないさね、なんて悪戯っぽく付け足し煙管を片手に答えを待った。]
(70) 2015/01/22(Thu) 23時頃