―追想の庭―
[人前で徐々に手品をしなくなったのは、4年前。手品を覚えて3年ほど月日が経った頃だった。
幻覚症状が現れるようになり、心象風景を露わにするのか。在りし日のピエロの男を映し出す。
――はじめは、声だけだった。
僕は空耳だと片付けた。
――次に、姿がうっすらと見えるようになった。
僕は白昼夢のようなものに、違和感を覚えはじめた。
声と姿が鮮明になりはじめたのは、1年半前。近くで大サーカス団じみた手品を見て、手元が狂いそうになったことがあった。
それ以来。手品を人前に見せなくなった。
僕の病気の症状を、知られないようにするために披露しなくなった。
手品を見せるのは、好きだったけれど仕方のないことだった。]
――彼自身はそうやって、自分のことをおざなりにし、”家族”である患者仲間を尊重することや、日々をいかに平坦に平凡に過ごすかに苦心しているのが実情だ。
(67) 2015/06/07(Sun) 20時半頃