[ヒナコはナナオを探すと言っていたが、何かあったのだろうか。
薬のおかげで痛みが少し楽になり自由になった思考は、不意に彼女と出会った頃のことを思い出していた。
『何かいてるんだ?』
ある日少年は中庭で、自分と同じ位の年頃の少女が真剣にノートに向き合っている姿を見つけた。最初は遠巻きに眺めていたのだが、もしかしたら彼女も絵を描いているのかもしれないという期待と、その熱心な様子への興味に負けて。
半ば脅かすように後ろから覗きこんでみたが、彼女の反応はどうだったか。
それ以来、此方は彼女のことを友人だと思って接している。
…そして今から1年ほど前のこと。鎮痛剤だけで眠りにつくのが厳しくなってきた頃、彼女へ半ば冗談めかして愚痴ったことがある。
『最近、寝つきが悪いんだよなー。
子守唄的なものって作れない?そしたら俺、毎日聞くよ』
欠伸を噛み殺しつつの、無茶な要求。しかし半分は冗談だったが、実はもう半分は大真面目だったというのは、此処だけの話*]
(59) 2015/06/05(Fri) 20時頃