―― 数年前 ――
[青年は、元は秋の国の国境に程近い、春の国にある、小さな村に住んでいた。
この秋の国と同じように、気候は穏やか。
森の中、人間と獣人が共に暮らす小さな村に住んでいたのだ。
けれど、ある日、その村の外で両親と共に狩りをしていたところを、マンティコアに襲われた。
逃げろ、と鋭く叫ぶ声。少年を守ろうと、獣の前に立ちはだかる背中。
それが両親を見た最後だった。
村に戻っては、今度は村が襲われるかもしれない。
どこをどう彷徨い歩いていたかわからないけれど、余程、腹を空かせていたのだろう。
赤い毛皮を持つ獣は、少年を追ってきた。
逃げるも、体力のない幼い少年はすぐに追いつかれそうになる。
小さな猫の姿となった少年は木の上に登った。
背中に、鋭い爪が突き刺さるも、振り切って、ようやく登りきった。
けれど、獣は木の下でぐるぐると回り、やがて少しずつ木を登り始めた。]
(52) 2013/11/17(Sun) 00時頃