[これまで幾ら押し退けても跳ね除けても、鬱陶しい程に離れようとしなかったくせに。
今になって離れるのかよ。置いてかないでなんてみっともなく告げてしまった自分の言葉が頭の中で、何度も執拗に反芻される。
掴んだこの手を開いてしまえば、あっさりと置いて行かれるのか。
いっそそうしてくれれば、楽になれるのか。
それを確かめる事も出来ずに、一層指先に力が入る。
握り込みすぎて血の気も失ってる掌の中で、白衣はきっと無残にぐしゃぐしゃになってるに違いない。
こんなんじゃ、迷子になった後の子供と変わんない。
目元に押し付けてるカーディガンがじわじわと水分を吸収して、大分濡れてしまった。体温程度じゃそれを温めてはくれない。冷たい。
その腕を引かれた所で、緩い動きに合わせてのろのろと従うだけで。
ガキんちょに遊ばれる人形にでもなった気分になる。
こんな力無い動作、振り払うなんてワケないのに。]
(49) 2014/07/05(Sat) 00時頃