[胸倉を掴まれた>>8ところで、妙なところが子供らしい弟の手が早いのはいつもの事で。ここに来てからどうだったかは、知らないけれど。
だからそんな事よりも、叫ばれた言葉の方が、よほど痛い。
喉に当てた手のひらの下で、ゆっくりと喉仏が動くのを感じる。
――こんな弟の声は、きっと初めて聞いた。
ようやく年相応に歪んだ表情を見ながら、白衣を掴んでいた腕が落ちるのを、視界の端で認める。]
………、っ、
[衝動に任せて伸ばしたその手に、力を入れられるとは思えなかったけれど。
初めて聞いた、弟からの懇願の声に、ぐ、と喉を鳴らした。]
なにも、兄らしいこと。
してやれなかったから。
[落とした言葉はエゴの塊でしかない。
此処への転勤が不本意だったのは事実で、それでもそれなら、今からでも弟に何かしてやろうと、そう思っていたのも事実で。]
(46) 2014/06/27(Fri) 19時半頃