[口から出た言葉は、此処に来てから散々考えて、出た疑問だったのよ。"もし此の記憶がなければどうなるか"。私自身はとても悲しいし、失いたくない思い出だけれども。この記憶が奪われてしまった時に、「きっと、良い意味で、今の私はない。」そんな結論に至ってしまったの。それが幸せなことなのかはともかくとして――。
だから、つい口を零れたのだけど、目の前の彼には驚かせてしまったみたい。]
……私ね。密告なんてできなかった。
怪しい動きなんてわからないし、捕まえる自信もない。
だから、いつか奪われてしまうのかなぁって
すこし、ネガティブに考えすぎているみたい。
勿論奪われる記憶は何かはわからないし、
絶対に失いたくない記憶、ではあるんだけど
――もし、失ってしまったらって。
[ふう、とため息をつく。コトコトと目の前ではポトフがおいしそうな匂いを発していて、忘れかけていた食欲を唆る。]
それにしても、今朝は、静かね。
[何気なく、そんな一言を。]
(40) 2016/10/10(Mon) 22時頃