― 裏通り、寂れたBar ―
[一本裏通りに入ったところで、ふと目に止まった建物があった。暗赤色の煉瓦に囲まれた、やけに重そうな黒い扉。何の気なしに、扉に触れる。一瞬だけ、何だか懐かしいような、妙な感覚に襲われたが、すぐに消えた。
扉の向こう、暗く細い階段を降りると、もう一つ扉がある。そっと押すと、そこは古びた酒場だった。灯りは点いているが薄暗く、カウンタの内側だけがやけに明るい。
暫く店の中をうろついてから、カウンタの内に入ってみた。特に意味もなく、冷蔵庫や製氷機や戸棚の扉を開けたり閉めたりを繰り返してみる。]
……何やってんだか、俺。
[苦笑いと溜息が同時に漏れた。
ふと、カウンタの奥の方に目をやると、床に何か鈍く光るものが転がっている。近づいてみると、ーそれは4輪の薔薇が刻印された、金属のプレートだった。つやのないそのプレートは、全体が微妙に湾曲している。]
(37) 2012/02/10(Fri) 01時頃