―回想・薬屋にて―
[ぼんやり呟いた一言に、相手が何とも意地の悪い事>>29を思っている事などしらぬまま。
続いた薬師の言葉には、女にしては珍しく曖昧な笑みを浮かべてみせる。
前に一度、天の悪戯に家族の記憶を"盗まれ"てから、早十年と少し。結局今でも盗まれたものを取り戻せないと言うことは――あゝやはり自分にとって、それは大切では無かったのだろうか、なんて。
彼は随分、取り戻す事に自信があるようだけれど。
それが少々疎ましく、そしてほんの少しだけ――羨ましい。]
……ほんと、意地の悪い。折角褒めたのに。
[軽口に対して返された言葉>>30には、やはり拗ねたようにツンと唇を尖らせながら。
だけれどこう言ったやり取りは存外に楽しく――少しだけ、故郷を思えば懐かしく。
女の目元は微かに緩んではいたけれど。
そうして腰を持ち上げ、少しだけ素直に言葉を掛けてみたのなら。
耳に届いた"異国の言葉"に、腰を上げ掛けた無様な格好で寸時動きを止める。]
(35) 2015/01/22(Thu) 14時頃