−夜の森−
[月明かりに照らされた「かれ」の膚の色、そして質感。
それらは全て猛々しく、また天上の女神でさえも敵わぬ程に純潔なものであった。
「かれ」がトニーの肉を喰らうのを、ただじっと見つめる。
少年の身は、肉は、自分と同じ人間のものであるというのに、不思議と恐怖感の類は起こらなかった。
それはヘクターがマーゴの肉を喰らう時のような距離感とは、おおよそ異なるものである。]
……もうすぐ、満月ですね。
全てが満ちる満月の刻。
何故でしょう。トニー、私は貴方が「かれ」に食べられる様を見ても、哀しいとは思わないのです。そう、貴方は「死んだ」のではなく、「かれ」と一体となり、「還った」のですね……
……私は貴方が羨ましい。
[雲の狭間で揺れる月光の下、首だけになったトニーと、聖母のような眼差しでそれを抱く「かれ」を見て、微笑んだ**]
(33) 2010/08/10(Tue) 13時頃