─in the こたつ─
[ 御渡市の商店街から真っ直ぐ西へと歩みを進めた先。
山の端に、古びた小さな屋敷があった。
『能瀬』と書かれた表札のぶらさがった門の中に、ひとりの女が住んでいることを近所の人たちは見知っている。]
うーん、うーん。
[ 屋敷の中ノ間には、季節はずれのこたつがひとつ。
こたつの上には、封が切られた食べ差しの生八つ橋と、小さな白い石があった。]
まがたま……マガタマねぇ。
[ 頭をこたつの卓の上に載せ、だらりとした格好で石を見つめる女。
滑らかで、濁りひとつない純白。陶磁器か、白翡翠か、あるいは半化石化した貝殻なのか。その材質を測り知ることはできない。
彼女が友人から拝借──人によっては強奪と表現するかもしれない──したそれは、確かに何らかの力を持っているようだった。
ごそごそと布団から手を出すと、マガタマをひっくり返す。
すると、純白のマガタマの裏側に、小さな黒い染みが現れた。
それは、まるでミルクの中に垂れた墨汁の一滴のように、じんわりと、マガタマを黒く染めていた。]
(32) 2016/06/14(Tue) 10時半頃