[メスが床に落ちて跳ねる硬質な音が、やけに大きく室内に響いた。からからと転がって動きを止めたメスに視線をやり、少しばかり長い瞬きをする。変わらず荒く呼吸をしながら]
……帰り、たまえ。
[今度は穏やかな口調で、しかし有無を言わせない気配を持って言った。右手を脇腹から一旦離し]
私も……このままで死ぬのは、つまらない。
……君にとっても、その方がいいだろう、……
切り刻まれたいというなら……また、別だが……
[その赤く染まった手で、ヨーランダの頬に触れた。ぬる、と滑る指先。一撫ですると、また傷口を押さえ]
……また来るなら……
クク、……歓迎しよう、……
[掠れた声でそう告げる。ヨーランダが自ら出て行ったなら静かにそれを見送り、そうでなければメスを構えて半ば無理矢理に出て行かせただろう。研究室内に一人になると、少しの間、佇んでいてから]
(27) 2010/10/31(Sun) 03時半頃