[「じゃあ人参にしようかしら」と、橙色のそれを受け取って、彼の隣に立ったわ。
勝手に略したことは、別に気に止めていなかったわ。今までの私なら気にしたんでしょうけど。この状況――もう、変に身分なんて気にしていられる状況でもなくて。
――それに。今こうして明るい考え方で支えてくれている彼が。何よりも、頼もしかったから。]
……忘れたくないほど大切な記憶。
それはたしかに、ここにあるから。
きっと、大丈夫なんだと思うわ。
そうね、そう考えないと参っちゃうと思う。ありがとう。
[にこりと微笑んで]
――……でも。すこし、考えるのよね。
「もしその記憶がなくなったら、私はどうなるだろう」って。
大切なんだけど、「私を縛り付けてる記憶」でもあるの。
大切な記憶を抱えてこのままでいるのと。
もし記憶を失って、先に進むのと。
本当は、どちらが幸せなのかしらね、って。
(27) 2016/10/10(Mon) 19時半頃