[店を閉め、酒場へ向かう道すがら。
小さな影が向かう道から駆けて来るのに気が付き、足を止めた。>>21
魚の仕入れに来たのだと分かれば、困ったように眉を下げた]
カルヴィンの坊っちゃんかい。
ああ、生憎ね、今日はウチの人が帰ってないんだ。
だから、お宅用の取り置き分もなくってね、悪いんだけどさ…
[言いかけて、はたと思い出す。
我が家の台所の、桶に詰めた氷の下に、何か居なかったか。けれど、あれは―――
暫くの思案の後、待ってな、の言葉の後、七色に輝く一尾を手に戻ってきた]
…はい、ニジイロカサゴだよ。
アタシ用のとっときだったんだけどね。坊やに強請られちゃ仕方がない。
[子供に弱いのは、子を持つ母としてはどうしようもない性分だろう。
もっとも、自分の家の子には厳しく、他所の家の子には甘い。自分の責任がないと甘やかしたくなるものだ。
彼が魚を手に酒場に戻るのならば、道程を共にすることになるだろうか。
―― 彼が、戻りにくい事情を抱えているなどと露も知らぬ女は、当然のように一緒に向かうと思っているが。*]
(24) 2016/09/14(Wed) 19時頃