ね、カルヴィン、ちょっとだけお願い。すぐ、すぐ戻ってくるから!
[店内に客が増えるにつれ、そわとする様子を隠せもせず。遅れた分だけ慌ただしく店の準備をするカルヴィンの服の裾を摘んで頼み込むと、返事もさせずに店を駆け出した。]
あ…、ねぇ!
[村の入口近くで、すぐに探し人の姿は見つかって、呼び止める用向きもなく、凡庸に声を掛ける。少年はすっかり装束を整えて、まるで一端の旅人のようだ。]
…えっと…、あのさ。これ。
[長い髪を結わえていた布地を解き、少年の荷物へくぐりつける。]
これ、ビアンカのおばさんに生まれた時に貰ったの。お呪いがしてあるんだって。危ない目に合わないように。
…………、そんだけ、じゃあね!
あんたが帰ってくる頃には、とうの昔に嫁に行ってるわよー!
[踵を返し、振り返りざま思いっきりあっかんべーをする。そのまま元来た酒場の方へ駆け出すと、後ろから、大きく手を振る気配と、笑い声が聴こえたかもしれない。
酒場は既に賑わいを見せており、厨房で、ぱん、とひとつ両手で頬を叩くと、卓の間を泳いでいつもの愛想を見せただろう。]**
(20) 2016/09/17(Sat) 00時頃