[その店はシルバーアクセサリーの専門店だった。ショーウインドウに展示されたネックレスやらブレスレットやらリングやらの商品をじろじろと眺めていく。程無くして、端に置かれたピアスに目を留め]
……いいな、これ。
この間、ピアス片方失くしちまったしなあ……
んー、……
[左耳に揺れる小さなクロスのピアスに触れつつ、佇んで悩む。独りごちる声は、柔らかくも低い。三つ編みにした赤毛とその顔付きとは、不釣合いなようでもあっただろう。
その姿は――男は、中性的な顔付きと装いをしていた。とはいえ、女に間違えられる事は――少年時代には多々あったが――少なかった。それは主には、百九十も近いだろう長身と、その上で見るからに硬そうな平坦で痩せた肉付きのために]
……ま、いいか。
今、金ないし。ちょっと高いよなあ。あーあ。
[やがてそう零しては、男は再び歩き出した。ピアスと同じクロスのネックレスが揺れる。口に銜えた煙草型の物を指先で摘み、がりがりと噛み砕いた。その煙草型の――ラムネ菓子の欠片を飲み込むと、ロングコートのポケットに手を突っ込み]
(8) 2011/10/17(Mon) 06時頃