―深夜:アレクサンデル家の一室―
[疲れのせいか、イアンは原稿を書かずに寝台の上で夢の中に堕ちていた。見る夢はひどく生々しく、己の欲望を制御する枷が、ヒトならざる者の手によってひとつひとつ丁寧に壊されるというものだった。
イアンの肉体がその手――夢の中に現れた「かれ」の白い手によって、いよいよ触れられてはならぬ場所へと達した時、イアンは硝子が割れる音で目を覚ました。]
……ヘク……ター。
[スリッパを履き、窓際に立つヘクターに近寄る。
随分と視界が悪いのだろうか、彼はイアンの頬を血塗れた手で包み、彼が最も願うことを請うたのだった>>305]
そう、ですか……
ですが、私が貴方の望みを結果的に叶えたとしても、それは貴方が望む理由ではないことだけは、どうかご承知おきください。
「かれ」は私とは違う。だから、私は貴方と同じ理由では動けない。それだけは、不変の事実です。
――…それさえご了承いただければ、私は「かれ」を告発したりはしませんよ。
(4) 2010/08/08(Sun) 06時半頃