― 現実(宿に呼び出されるより以前の話) ―
[フランシスカとトルニトスとの狩りが終わった後、休憩すると一度現実へと戻った。
ヘッドフォンとゴーグルの二段装備を外すと、取り立て目立った特徴もない顔が現れる。前髪だけは、アバターと同じく少し長い黒髪だ。
年の頃はまだ20になる手前だが、体格だけは既に大人の仲間入りを果たして通りこし気味だ。要はでかい。
以前細身や小柄にロマンを語ったのは、現実がこんなだからこそだった。
ふと机の脇に置いておいた型落ちのスマフォを見ると、ランプが点滅していた。
着信だか、定期のアラームに瞬いてから、頭をかくと椅子から立ち上がる。タオルケットがずりおちたが、踏みつけて部屋を出た。
部屋を出ると、いい匂いがする。母親が食事を作っている匂いだ。
アヴァロンの匂いも味も嫌いじゃないしどっぷり嵌まり込んでいるものの、現実の大切さもきちんと理解している自分は、おそらく普通の部類の人間だった。
もっとも大学中退して専門学校に入ったという経歴は、褒められた物ではないのだが。]
(3) 2014/06/01(Sun) 21時半頃