[そうやって、互いに核心に触れぬまま、沈黙が祈りの家の一室を覆う。飲む気になれない紅茶のカップに口を付け、直ぐにソーサーの上に戻した。
不意にエリサが口を開く。
問われた事に、ひと言で答えるのは難しい。なにせ、自問自答を繰り返して、決着を着けるのに百年以上掛かった。チャールズの、人ならざる命の在り方。少し悩んで、カップの淵を親指でなぞる。]
……祖国を、護りたかった。否、護らねばならなかった、のです。
少なくとも──きっかけは、そうでした。
[豊穣と戦いの女神を信仰した、龍の護りし聖なる国。
かつて大陸を交易と戦火で支配したその国の名を、知っている者は殆ど居ない。
下ろしていた視線を、祭壇の方へ向ける。ステンドグラスの正面、本来ならば神の偶像が在るべき場所には、今は何も据えられていない。
この世に全き物など存在しないのだ。人も物も国も獣も妖精も龍も、神ですら──いずれは衰え、滅びる。
護りたかった祖国は疾うに、地図の上から永遠に消えてしまった。そうして、悠久の刻だけが、チャールズの手に遺された。]
(+20) 2013/11/25(Mon) 23時頃