299 さよならバイバイ、じゃあ明日。
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[イナリを見送った後、軟体動物はにじりにじりと路地裏を這っていた。やっぱりいつものように動きは遅く、到着に時間がかかった。
目的地につくと、地面に触角を伸ばし、何かを探している。]
………ンゴ。
[探していたのは、最後に自分に宛てられた文字。>>1:99>>1:100 時間がだいぶ経って誰かに踏まれてしまったのか、文字は消えていて、何となく汚れたように見える跡が残っているだけだった。
やがて夜が来て文字の痕跡も見えなくなり、確認は諦めるしかなかった。]
(0) 2019/10/14(Mon) 02時頃
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「つぎ」も「また今度>>1:115」も なくなってしまったンゴな。
[ぽつり。
突然の別れはしばしば起こりやすいこの街だが、やはり寂しさは覚えるものだ。
青いゼリーの欠片がどこかにあるなら食べたいンゴ、などと思いながら。
夜も更けてきたので、物陰に身を隠し、丸くなって眠る。**]
(1) 2019/10/14(Mon) 02時頃
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……おや。バレてしまいましたか。
もう少しだったのですが、残念です。
[異邦人であると看破された時の狐の反応は、その程度のものだった。
それでも祝賀会が開かれると聞けば嬉しそうに目を細めて、それは楽しみですと笑った。]
とんてけとんとん、しゃんしゃん、ぴーひゃらら。
[お祭りのような祝いの音色が街に響く。
その中心にいる狐は、頭に載せられた花冠にまんざらでもない顔をして、歌い踊る住人達を眺めている。
狐の目元を彩るのは、虹色顔料を混ぜた紅。狐があちらこちらに鼻先を向けて手を振る度に、赤から緑、青、橙、そして金へと色が変わってゆく。
狐が纏うのは、おろしたての真っ白な狩衣。その下の着物は、星が夢見る夜空のように深く、青い。
その上から花やらなにやらで飾り立てられて、狐はまるでちんどん屋のようであった。]
[あちらもこちらも飲めや歌えやの騒ぎの中、一際目立つ極彩色が目に入ると、狐はぴくりと耳を立ててそちらを向いた。]
もし、そこの人。
そのテーブルの上の、そうそれ、虹色の。
これにとって持ってきてくださいまし。
ほら、餞別だと思って。
[不運にも近場にいた、乳のようにどろりとした飲料を注いで回る酪農家にそれそれと指を差し、二枚貝の入れ物を押しつけた。
金蒼角の酪農家がキラキラしくなった指に顔を顰めながらそれを持ってくると、受け取った狐は満足そうに頷いた。]
どうもお手数をおかけしまして。
わたくし、この色がとても気に入りましたので。次行くところにも持ってゆきたかったのですよ。
[そう言って二枚貝を大事そうに荷物にしまった。]
[どこからかキンキン囀る声が聞こえればそちらに目を向ける。
若草色の"美の研究家"には仏壇臭いだのインチキ祈祷師だの散々突っかかられたものだが、狐は相手をおだてたり話題を逸らしたりして、のらりくらりと躱すのが常だった。
だから今日も、扇子で口元を隠したまま、目を細めてホホホと笑うだけ。
その様子に、また彼女はぷりぷりと怒り出すのかもしれないが。]
おや。これはこれは可愛らしい。
貴方も一緒に来てくれるのですか?
ホホ、これは嬉しいこと。
[荷物の中に入り込んだ小さな毛玉に目を瞬いて、どうやらあのふわふわ毛玉のものらしいとわかると、ちょんと指の先でつつく。
荷物の中は雑多なもので溢れているので、手拭いを丸めた巣を作ってやることにした。これで道中、潰れることもないだろう。]
ああ、ソルフリッツィは今日も見回りですか。
こんな時にも……いえ、こんな時だからこそ、でしょうね。
いやはや全く、彼の真面目さには頭が下がります。
けれど、……ほら。
少しは、楽しんでいかれればよろしいのに。
[祝いの席から離れようとしては別の輪に捕まり、また離れては別のところで捕まり……を繰り返している自警団の彼を遠目に眺めて、ホホホと笑う。
その後ほどなくして、彼が雷に打たれて絶命したことを、狐が知ることはないだろうけれど。
もしも彼の死の様子を見たならば、狐はきっとよかったと言うのだろう。
彼が死を恐れていることを知っていたから。
何が起きたのか理解する暇もないまま、一瞬で絶たれたのであれば、きっとそれはよかったのだと。]
あっこら、胴上げはおやめなさい。
いやワッショイワッショイではなく、あっちょっと、うっぷ、ちょっとお待ち……ああぁ……
[それから、急に始まった胴上げに為すすべなく揺られながら、狐は走馬灯のようにこの街での日々を思い出したりなどするのであった。**]
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[夜。 雨が強くなり、水に濡れた軟体動物は寝ぼけ眼で移動し、路地裏に積み上げられた木箱と木箱の間に潜り込んで睡眠を取っていた。
そこへ。 真っ白な光が辺りを照らし、続いてドオン!と大きな音が響く。>>3:44]
おああーーーーっ
[屋外にいた軟体動物はビビり、木箱の中に飛び込んで震えた。幸い、箱に当たることはなく、そのまま一夜を過ごす。
もしかしたら、近くに金属の塊があったせいで、命拾いしたのかもしれなかった。>>3:47**]
(18) 2019/10/14(Mon) 21時頃
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―次の朝―
[軟体動物の朝は早かったり遅かったり。 その日は比較的早かった。
木箱から這い出て、ゆっくり地面に降り立った。 触角を伸ばしてストレッチなどをし。
やがて餌を探しに行く。 コーラを大分齧ったから、しばらくは平気だけれど。 ありつけるうちはありついておきたいのだ。]
……ンー。
[そしてある地点で止まる。]
(19) 2019/10/15(Tue) 01時半頃
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……ソルフ。
おーい。 ソルフ……リッツィ。
[倒れている獣は火傷を負っていた。>>3:48 それだけで死んでいる、とは断定できなかった。 生きているなら、早く誰か呼んでこよう。
長い名前を思い出し、呼びかけながら触角で突付く。 だけど、長い耳はピクリとも動きやしない。 長くここに居たのか、長耳はすっかり冷たくなっていて。
死んでいたのだ。]
(20) 2019/10/15(Tue) 01時半頃
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……ンゴ。
[触角をゆらゆら、交差させる。 以前巻き付いてみた腕も力なく。 きっちりした鎧は弾け飛んでいる。 何かすごいものがソルフリッツィを襲ったのだけはわかった。]
……………。
ほんのちょっと前に、ソラとソルフと話したのにンゴ。
[本当に、つい先日だったのに。 もう動かないなんて嘘のようだ。
ちょいちょい、ソルフリッツィの額を撫でてから、軟体動物は焼けた獣の柔らかい耳を齧りだした。ところどころ焦げていて苦い。
この街では毎日誰かが死んでいく。 皆、皆死んでいく。 時に、さよならを言う暇さえもなく。**]
(21) 2019/10/15(Tue) 01時半頃
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[死後の世界、というものがあるのかどうか、ソルフリッツィにはわからない。
わからないが、ソルフリッツィが命の灯を止めた者の中には、それを信じるものもいた。
自分はどこに行くのだろうか。その前に、死したのだろうか。
何もはっきりとしない。ただ暗闇の中を、漂うような落ちるような感覚を抱いたまま、そこにいる。]
[ゆらゆら、ゆらゆら、そこにソルフリッツィの意思は介在しない。
死後の世界に行くならば、行くのだろう。
あるいは、ソルフリッツィにとって、今まで生きていた街こそが死後の世界だったのかもしれない。
では、死後の世界で死ぬと、どこに行くのだろう。
考えることすら、もう、できない**]
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ンゴ。 おはようンゴ。
[やってきたギロに気がついて、少し口をしゃべるのに回す。長耳の片方、三分の二くらいは食べてしまっていたか。
しかし、突然の死を聞き届け>>42]
ン!? ング……、ンゴゴゴゴッ。
[驚きで喉に死肉を詰まらせた。 もがきもがき。]
(43) 2019/10/16(Wed) 00時頃
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