270 食人村忌譚
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真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/27(Mon) 22時半頃
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[どれだけ丁寧にやったところで、そも研ぐ面積の少ない短刀は夜が更け切らないうちに仕上がった。月明かりに透かす――というほどではないが、少ない明かりを集める輝きは、やはり何物にも代え難く美しかった。
人が一人死んだ。 疑われているらしい、とわかって、それでもまだどこか他人事のように考えていた。 己はただ、作物の世話をし、時折刃を研ぐだけ。 人が死のうが産まれようが変わらない]
(57) 2017/11/27(Mon) 22時半頃
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― 翌日 ―
[実際に、変わらなかった。 朝はきちんと早起きをし、畑の世話をした。 干し柿の様子を見て、またひとつ集会所へ持っていくことにした。 予感があったわけではなく、依頼の品を届けるのに、集会所が適当だと思ったからだ。まだ、何も解決していない。それは、村の空気から知れた。 ―――また一つ、死体が増えたことは察することが出来なかったが]
(59) 2017/11/27(Mon) 23時頃
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― 集会所 ―
[常と変わらず自宅で眠り、常と変わらず畑仕事を終えてから動き始めた丞がその場に着いたのは、おそらくはかなり遅れてのことだったろう。
緊迫した空気に、ぽかんとした不思議な間が通り過ぎる。 新たな死体。新たな弔い。新たな糧]
……なんだい、 産まれるより死ぬが多くなっちゃあ こんな小さな村はすぐにおしまいだろうに
[子を孕んでいた櫻子が、死んだ。 儀式だろうが殺人だろうが(それは、やはり丞の中でも明確に別のものと考えている)死んだことに違いはない。 死んだならば、弔わなければならない。それこそ、毒があろうが、よく煮込んで食べなければならないのだ]
(73) 2017/11/27(Mon) 23時半頃
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……よくわからんが、 志乃が下手人だ、と思うのでなければ 好きにやらせりゃいいんじゃないかい
[志乃の言葉の途中で集会所に辿り着いたがため、事態の把握は十分ではないが、それでも、やはり他人事のように言った。 弔うのを否定しているわけではないのなら、誰かの意思をつぶすのもあまり気分はよろしくない。ましてや、死のの顔色だってよくない。
腕を組めば、懐にしまい込んでいた短刀が冷たさを伝えてくる。この短刀も、ただ殺しにくるのではなく、儀式として死を求めてくるのであれば、それからは逃れられないのかもしれない。
櫻子の死に顔は、―――ぽっかりとあいた穴のせいか、表情は読めなかった。彼女は、死ぬことを理解できたのだろうか]
(82) 2017/11/27(Mon) 23時半頃
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まぁ ……そうな
[頷いたのは、先ほど聞こえたミナカタの呟き>>78に対してのものだ。もう一度それを口にするのは躊躇われるほどだ。 儀式だろうが何だろうが、櫻子が死んだことに変わりはない。弔うために、冬の蓄えにするのも道理だ。こんな山奥の小さな村。いくら村人の数が少なくても(少なくなろうとも)冬場を過ごすのに十分なほどの蓄えはない。 儀式というものは―――…朽ちかけの「鬼」の表札を、ふと思い出した]
おう、手足を切るなら手を貸すぜ ……こういう時、男ってのはそういうことにしか役に立たねぇからな
[結局。飲み込んだ言葉を口にしたようなものだった。 女というものは、どうにも恐ろしい]
(94) 2017/11/28(Tue) 00時頃
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― 幕間 ―
[さて、自分が振るう分の斧を取りに行った時か、手を洗いに行った時か。ふと覗いた囲炉裏端。目当ての姿を見かければ、懐から取り出したのは、昨日約束した、丞の手には小さすぎる短刀。
いくら研いでも、それはただの刀に過ぎぬ。 不思議な力など持ちようがないし、己を守るかどうかは、結局は己の腕次第。 だから、渡す時に言えるのは、一言]
死ぬも生きるも勝手だが せっかくだ、 使う時が来たら、迷わず振るえよ。
……ま、あんたにはいらぬ言葉だろうが
[勝手にするだろうよ、と薄い唇を曲げるような笑い方をして、差し出した。死ぬも、生きるも、結局決めるのは他人なのだろう。そしてこの村では、死んだあとですら己の意のままにはならないものだ。 なにせ、たとえば死んだ愛理や櫻子が、生まれ変わりたいと思っているかなんて、誰も知らないのだから**]
(99) 2017/11/28(Tue) 00時頃
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真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/28(Tue) 00時頃
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[四肢を切断され、野菜を詰められる櫻子の姿は、死者への哀れみを以てしても美しいものには思えなかった。 腕を、足を落とした感触。 斧を振るった重み。 それらは、人ではないもの――家畜だったり、邪魔な枝を切る時と、なんら変わらないように思えた。
実際、変わらないのだろう。 生まれ変わるかどうかなんて、当人は元より他人にはわからない。この村に生まれた丞だってその自覚はない。 住人のほとんどが苗字を名乗る意味を持たぬこの村で、朽ちかけとはいえ表札の残る家を我が家と定めたのも、その姿がその名に相応しいのも、全ては成り行きだ]
(189) 2017/11/28(Tue) 22時半頃
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[この村に生まれたから人を食べている。 この村で生きるために人を食べている。
巫女を信じ、情欲とは別に男である証として女を抱き、儀式に異を唱えず、ただ村人が餓えない分だけ作物を耕す。 儀式に異を唱えずに……。 巫女の言葉>>17を思い出し、櫻子を食む口の動きが止まる。 儀式はいつまで続くのか。今夜も執り行われるのか。新たな糧が供されることとなり、そしていつか……]
冬の蓄えが村人の数を超えちまうんじゃねぇか
[箸を置く。 必要十分よりも多くは求めない。 それが、自然の力を借りて食糧を得ているものの鉄則だ。 弔いの肉は勿論、食糧としての意味は薄いかもしれない。それでも、ようやく「気持ち悪いことが起こっている」と言う感覚を得た]
(197) 2017/11/28(Tue) 23時頃
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[これまでは高揚があった。 研ぎの仕事をしている時は常にあるそれが、続いていた。 しかし、昇ればいつかは下るもの。 ここ暫くの傑作、と自負する短刀への賛辞>>126は、自尊心を満足させ、そして同時に常ならぬ事態への自覚を促すこととなった。
―――それでも、常と変わらぬ仕事は必要だ。 人一人を丸焼きにした竃は、いつもの弔いよりも汚れている。 子を養うためについた脂肪は煤けてこびり付くようで。 今日の汚れは今日のうちに、と丞は竃の掃除をかってでた。 もしかしたら、また明日使うかもしれない。 儀式が続くならば、また明日――あるいは今夜、人が死ぬのだから]
(206) 2017/11/28(Tue) 23時半頃
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真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/28(Tue) 23時半頃
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[滴った脂を吹いた雑巾は嫌な臭いがした。 思えば、昨日も今日も片付けばかりしている。 血を流し、脂を拭き、今も雑巾を濯ごうとしている。 人が一人死ぬということは、食べる以外にも片付ける必要が多々生まれる。綺麗なだけじゃない。美味しいだけじゃない。汚いことはたくさんある]
よう、 弔いは終わったかい
[汚れた雑巾を手に水場へ足を向ける。 難しい顔をした容はまだそこにいたか。 それとも、表情は変わっていたろうか。 弔いの手順はいつも通り。けれど確実に常とは違う空気は、重さを感じるような心地がした]
(211) 2017/11/28(Tue) 23時半頃
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あぁ、 ………縁起でもねぇ あの時も言ったが
そういう台詞は年寄りに任せとけ
[汚れた雑巾を水に浸し、きつく絞り上げる。 ミナカタ、と呼ばわるに振り向けば、なんとも言えない表情がそこにあった。その顔に首を傾げて、また視線を戻せば、よく似た焦げ茶色が翻る。
――――忘れないでいようと思った。 言葉遊びのような約束を、彼女が覚えていたことを。>>219 思えば、気に入りの頬も舌も、ここしばらく食べていない。愛理も櫻子も、皆と同じく与えられるがままに食べただけ。 美味しいと思いはすれど、それは弔いに参加するだけのこと。真に弔いの気持ちがあったかは、わからない]
(230) 2017/11/29(Wed) 00時半頃
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なんてことねぇ、 約束の話だ
[忘れてしまっても良かった約束。 容の背中を見送ってからようやく、それを「今」口にした意味を考える。
雑巾から絞った水が流れていく。 濁ったそれも、櫻子の欠片だ。 上からさらに水を流せば、黒い筋は消えていく。 明日もまた、同じように誰かの欠片を流すのだろうか]
(240) 2017/11/29(Wed) 00時半頃
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[ふと「逆縁」という言葉が浮かんだ。 親子の関係が希薄なこの村で、若い者もよく死ぬこの村で、そんな言葉をどこで聞いたのだったか。
―――何度も、何度も雑巾を絞った。 冷たい水は、刃研ぎにも使うから慣れ親しんだはずなのに、力を込めすぎたのか、この冬初めて、あかぎれが血をにじませた*]
(244) 2017/11/29(Wed) 00時半頃
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真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/29(Wed) 00時半頃
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